第7話
「お父さん!」
二人が懐中電灯をたよりに、1階に降りていくと、お父さんが難しそうな顔をして電話をしていました。
「この前見てきた所に落雷して、焼けこげてしまったんだ。それで火事が出てしまった。この雨でも消えないだろうし、被害を見に行かなくてはならんなぁ」
話を聞いたとたんに、二人ははっと気がつきました。
「お父さん、私たちも連れて行って!」
「なに言ってるんだ。この嵐の中におまえ達二人を連れて行けるわけ無いだろ!」
その反応は当然のことでした。大人の男性でもこの雨では上まで登るのは大変なことになるに違いないのに、こんな幼い二人ではあまりにも危険すぎました。
「でも、あの巣が焼けちゃう!」
お父さんはうなりました。自分は機材の被害の様子などを確認しなければなりませんが、この火事が広がってしまうと、きっとあのフクロウの巣まで焼けてしまうことは十分に考えられました。届け出たときに分かったのですが、珍しい稀少種だということで、十分な保護と監視が必要だと確認していたからです。
三人で考え込んでいると、今度は戸を強くたたく音がしました。
驚いて外を見ると、瑞穂がびしょ濡れで立っていたのです。
「瑞穂ちゃん、風邪ひくよ!」
二人は驚いて彼女を家の中に入れました。
「大変、早く行かなくちゃ!」
瑞穂がここまでして駆け込んできてしまっては、ここで行かない訳にはいかなくなってしまいました。
お母さんが瑞穂の濡れた服を少しでも乾かし、お父さんが用意をしている間、二人は大急ぎで着替えてきました。傘はあっても役に立ちそうにないので、レインコートを着て行くことに着替えての出発です。
途中で雨水が滝のように流れている所をいくつも通り、車は山を登っていきました。
「消防車は来るの?」
「あんなところに消防車は来られないから、この雨で消えてくれるのを待つしかない。ヘリコプターが出るには天候が最悪だ」
「瑞穂ちゃん、寒くない?」
つぐみは濡れてしまった瑞穂に聞きました。傘を持って出てきたらしいのですが、途中で意味が無くなってしまって、あとは走ってきたと言うことでした。靴下も靴も茶色く汚れてしまっているので、泥水の中を走ってきたのでしょう。
「あの川を渡ってきたんでしょう? 流されたりしたら大変だったのに」
「うん、でも行かないわけにはいかなかったから……」
雷が落ちた時に瑞穂も外を見て、居ても立ってもいられなくなり、着替えもせずに飛び出してきてしまったのでした。
四人の乗った車が、山の中の広場に着くと、もう何台も車が停まっていて、小さい消防車も到着していて作業を始めていました。
「これから行って来るが、必ず三人一緒にいなさい。こんな中で迷子にならないように。あと、危ないと思ったら、すぐにこの場から離れるんだ。いいね」
お父さんは三人に言い残すと、すぐに昇っていってしまいました。
残されたまなみたちは、すぐに森の中に入ろうとしましたが、驚いたのは、もうそこは森ではなくなってしまっていたのです。落雷の衝撃がよほど大きかったらしく、木がたくさん折れて倒れていましたし、枝も折れてしまって雨が容赦なくたたきつけていました。
木が倒れてしまっているので、目的の木を探すのに少々手間取りましたが、ようやく巣のある大きな木を見つけました。
「届かないなぁ」
「まなみちゃん、持ち上げてあげるから中を見て」
瑞穂は三人で一番小柄なまなみをつぐみと持ち上げました。
「親鳥はいないみたい。あ、でも雛はいる!」
まなみが穴の中に手を入れると、1羽の雛をそっと抱きかかえました。雛と言ってももうだいぶ羽根も生え揃ってきていて、巣立ちまでもう少しの状態です。
「きっとショックで動けなくなっちゃったんだね。あとは無事に逃げられたみたい」
三人でざっと見てみましたが、大きな怪我はありません。でも、あまりのショックにうずくまったまま動けなくなってしまったようです。
「どうする? とりあえず元気になるまで家で面倒見ようか」
これまでに幾度も森の傷ついた動物たちを保護してきたまなみたちには、お安いご用です。
ゆっくりと車に戻って、雛を乾いたタオルで包み、三人は山を下りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます