第4話
翌朝、二人が起きると、いつもは一緒に朝ご飯を食べてからお仕事に出かけるお父さんの姿がありませんでした。
「こんな朝早くからお仕事なの?」
つぐみはお母さんに聞きます。
「なんでも、少し早く行ってやることがあるんですって。なんか色々持っていったけど…」
「そっか…」
三人でご飯を食べて、お母さんがお仕事に出かけるのを見送ると、二人も今日の作業の準備に取りかかろうとしました。
「あれ? 昨日出して置いた道具無くなってる…」
お庭の餌台の上に、小鳥たちのための餌を出していたつぐみも駆け寄ってきました。
「うそぉ?」
二人はがっかりしました。昨日の夕方、今日の作業で使おうと、スコップなどを出して置いたのですが、それが無くなってしまっていました。しまわれたのかと思ったのですが、確かに物がなくなっています。
「お父さん、お仕事で持っていったんだよきっと」
「それじゃ仕方ないね」
仕方なく、待ち合わせの時間になりそうだったので、今日はいつもの服装ではなく、学校の体操着を着て出かけることにしました。これならいくら汚れても、お洗濯も簡単です。
昨日の道を小走りに行くと、どこかで見覚えのある車が止まっていました。そして、瑞穂と一緒にそこでおしゃべりをしていたのは、
「お父さん、どうしてここに?」
二人が驚くのも無理はありません。朝早くからどこに行ってしまったのかと心配していたら、こんな所にいたのですから。
「女の子だけで危ないことはしちゃダメだぞ。怪我でもしたらそれこそ大変だからな」
お父さんは、最初に少し厳しい声で言いましたが、車の後ろから大きな石を降ろしにかかりました。
「この石選びに行ってたの?」
昨日の夕食で、二人が計画しているのを知って、怪我をしないようにと、こんな朝早くから石集めをしてくれたのでしょう。
さすがに、つぐみたち三人と、大人の男性では力が違います。そのあとは四人で一度川原まで石を全部運び込んで、そこから先は1つずつ川底に埋めることにしました。
最初はただ間隔を空けて石を置いていけばいいかと思ったのですが、それでは大雨が降って水かさが増すと流されてしまうと言われて、急きょ川底を少し掘って、そこにはめる形にしたのでした。二人のお父さんは、それを見越して、昨日三人で選んだ物よりも大きな石を持ってきてくれていました。
お父さんはそこで、お仕事の時間が近づいたので、三人に十分に気を付けるように言い残して、行ってしまいました。
「それでも、ここまでやってくれたんだもん。本当に助かったよ」
瑞穂が二人にお礼を言うと、今度は自分たちでやることをすぐに考え出しました。
「とにかく、1つずつ行きましょう。昨日見つけていた奴より重いから気を付けてね!」
石と一緒に運んでくれていた道具を手に、三人とも今日は川に入っていきました。
大体の歩幅を計ってみて、その位置の川底を少しだけシャベルで掘ります。穴が出来ると、今度はそこに運んできた石を力を合わせてゆっくりと運んで、静かに置きました。ちょうど水面から数センチ顔を出すような大きさに、三人とも感心してしまいました。
そのあと、もう一度穴を掘ったときの砂や砂利で埋めて、流されないように工夫しました。
朝早くから始めた作業にも関わらず、4つの石を置き終わった頃には、もうお昼をずいぶん回ってしまっていました。
「よし、これで終わりだぁ」
三人とも、びしょびしょになってしまいましたが、何はともあれ、これで瑞穂のお家に行くにももう遠回りのバス道や、この川を危ない思いをして渡らなくてもすみます。
早速、瑞穂は急いでお家に戻ると、タオルとお昼ご飯を持ってきてくれました。
「お姉ちゃん大丈夫?」
普段あまり力を出したことのない彼女が、これだけ大張り切りでやれば、体が痛くなってしまっても不思議ではありませんでした。
「すぐに治るから平気。でも、これで秘密の近道完成ね」
結局、その日は河原でお茶を飲みながらのんびり過ごすことにしました。満足げな顔で、おしゃべりに花が咲きました。
夕方、濡れてしまった服もすっかり乾き、荷物を片づけようとしていると、二人のお父さんがまた迎えに来てくれました。
そして、瑞穂もその夜の食事に来て欲しいとお願いしたのです。もちろん、瑞穂が断ることはなくて、その日の夕ご飯は、ずいぶんにぎやかなものになりました。
大人にとっては、このくらいの作業は苦労することではないかもしれません。でも、この三人にとっては、この夏休み前半の一大イベントでもありました。それを知っていたからこそ、まなみたちのお父さんは、最後までは手を出さず、子供達だけでは危ないというところだけを手伝ったのだと、その夜の夕ご飯の席で、そっと三人に話してくれたのです。
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