第3話
翌朝、二人は宿題を手提げに入れ、瑞穂の家に向かいました。
瑞穂がいる間は、この二人のための小さな先生になってくれています。午前中にその日の分を済ませ、午後は夕方になるまで三人で過ごすというのが、長期休暇の過ごし方でした。
その日も、午前中に宿題を進めると、午後は昨日と同じように庭のテーブルにお茶とお菓子を並べて、昨日の続きを話し合うことにしました。
「結局、簡単な橋だと流されちゃうのが当たり前なんだよね…」
瑞穂が言ったことには、二人ともうなずくしかありませんでした。
「でも、私たちで出来る事って限られてるからね…」
中学生と小学生の女の子三人では、どのみち出来ることは限られてしまいます。となれば、大雨が来ても流されないように、向こう岸まで渡れるような物を作るというのは思っているほど簡単ではありません。
「だからね、昨日考えたんだけど…」
つぐみの顔を二人は注目しました。
「もう、最初から橋なんか作らないで、川を渡れるように足場作ればいいんじゃないかなぁって思ったの。それだったらどんなに大雨だって、雪だって平気でしょ?」
まさに同じ事を考えていたのでしょう。瑞穂も大きくうなずいて笑顔になりました。
「さすがつぐみちゃんね。それほど深い訳じゃないし、大きめの石を沈めて置いて、それを渡れる間隔にしておけば、もう流されないでしょ?」
「でも、そんな大きな石どっから持ってくるの?」
それまで黙っていたまなみが口を挿みました。それだけ大きな石をどうやって女の子三人で運ぶというのでしょう。あの河原周辺にはそれほど大きな石はありません。あるとすれば、もう少し上流に行くことになりますが、それだけの距離を石を抱えたまま歩いて来るというのは無理そうでした。
「それもちゃんと考えたよ」
つぐみは心配そうな妹の顔を見てにっこりと笑って、手提げの中から例の森の管理地図を取り出して広げました。
「昨日偶然見て思いついちゃった」
「え?」
三人で地図をのぞき込みました。
「この道って、お家の裏からすぐ行ける道でしょ? 川に一番近いところならちょっとで河原に出られるんだよね。それでもう少し先に行くと、大きな石がたくさんある場所に出るんだよ。お家にある手押し車を使えば持ってこられると思うんだよね」
「そっかぁ。じゃ、とにかく、その道を行ってみようか? まだ暗くなるまでは時間あるし?」
こうして三人はすぐに瑞穂のお家を飛び出すと、まなみ達のお家の裏にある道に入って行きました。
足下は舗装こそされていませんが、自動車が通れるくらいの広さはあるので、それほど足場は悪くありません。それに一般の人は入ってこない場所なので、夜になって暗くなること以外は、バス通りを通るよりも安全そうです。
「ここ通って瑞穂ちゃんところに行ければかなり近道だよね」
この道を春になってつぐみと一緒に歩いていたまなみは、しきりに感心していました。この道の存在は知っていましたが、瑞穂のお家への近道になるとは考えていなかったのです。
しばらく歩くと、道が急に曲がります。そこでつぐみも足を止めました。
「ここが川に一番近いんだよ。ちょっと段があるから川は見えてないけどね」
なるほど、言われてみると、確かに木々の間から見慣れた景色が見えました。川面は見えませんが、10メートルも行けば、もういつもの河原に出ることは確かでした。
とりあえず、そこからは少しずつ平らな場所を探しながら、川の方に行ってみます。倒れた木など邪魔になる物がないので、すぐに河原を見渡せる場所に出ました。そこから先は、いつもの遊び場なので、三人とも勝手は知っています。
「へぇ、こんなに近かったんだ。バス通りを使うと、この3倍はかかるのにね」
「この川と、先にある崖が邪魔で、昔は道路を作れなかったんじゃないかって、お父さんが言ってた」
河原に出てしまえば、瑞穂のお家は反対側の岸に渡ってすぐです。三人はもう一度、向こう岸まで渡るための場所を考えました。
「この服とか着てるときでも渡れるようじゃなきゃね」
三人ともそこそこの運動神経は持っていますが、抜群というわけではないようです。ですから、弾みをつけてジャンプをすると言うよりも、またいで渡れるくらいの幅で足場を置かなければならないようです。
「全部で4つだね…。ちょっと大変そうだけど…」
全員の歩幅を考えて、瑞穂は石の置き場所を考えました。そして、真ん中の2つは、水が増えることを考えると、それなりに大きな石を置かなければならないことも分かりました。
「うん、それじゃ、今度は置く石を探しに行きましょ」
すぐに、またさっきの崖を駆け上がると、来るときに来た道をたどって、また森の奥に進んでいきます。15分ほど歩くと、今度はさっきと違って、かなり近いところで水が流れる音がします。
「この辺はもう川って言うより、沢って言った方がいいよね」
つぐみが予想していたとおり、さっきの穏やかな流れの川ではなく、周辺は大きな石がたくさんある、幅1メートルくらいの沢になっています。夏場とは言え、高原の森の中と言うこともあって、暑くはないのですが、水辺となると、かなりひんやりとしています。
「こんな石運べるかなぁ…」
さっきの場所で、川に入って実際に深さを見てきたまなみが、いくつか石を見ては不安そうに言います。さすがに一人では無理そうですが、三人で力を合わせれば、なんとか運ぶことが出来そうな石を探しました。
日が西に傾きかけた頃、ようやく4つを見つけ終わると、さっきの河原にもどりました。
瑞穂が川を渡って帰った方が早いと言い出したからでした。
「それじゃまた明日ね」
裸足になって、川を渡っていく瑞穂を見送ると、二人は急いでお家に戻っていきました。
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