第12話
この年の春は、昨年よりもさらに早足でやってきました。二人が新しい学年になるころには、いつもは見られる残雪が、この年はほとんど残っていませんでした。
「今年は中学に上がる子が少ないね」
前の日に、新入学をする後輩たちのために教室のセットをしに行った二人は少し寂しそうに呟きます。最近は中学になるタイミングでみんな都会に出ていってしまい、地元に残る子供の数は年々少なくなってしまっています。
「私たちは、もうあそこには戻れないもの……」
「そんな都会にさおりちゃん行っちゃったんだよね……」
「まなみ、それは言わない約束よ」
「うん。元気でやってるかな。お手紙もまだ来ないし……」
「きっと忙しいんだよ……」
久しぶりの二人だけの通学路でした。前まではそれがごく普通のことだったのですが、今日はそれが気になって仕方ありませんでした。
学校での始業式は、その後に入学式を控えていると言うこともあって、簡単に終わってしまいました。
クラス替えも、担任の先生も変わらず、のんびりと教室でホームルームが始まるのを待っていたまなみたちですが、なかなか先生が来ませんでした。
「職員室で何かあったんじゃないの?」
少し教室がざわついた頃に、ようやく先生が教室に現れました。
「いや、すまんすまん。ちょっと急にな。まぁ、見りゃ分かるさ」
先生は少し興奮気味に話しますが、生徒たちには訳が分かりません。簡単なホームルームが始まりましたが、まなみがふと廊下を見やると、廊下に人影があるのが分かりました。
「誰かいる……」
まなみは気になって横のつぐみに教えようとしました。
「おーい、入って来いや」
それよりも早く、先生は教室のドアに向かって呼びました。
「あーーーっ!?」
まなみも聞いたことがないほど、つぐみが大きな声を上げました。
「自分で自己紹介と状況を説明しろな?」
先生は苦笑しながら、教室の前に立った少女に笑いました。
「今日から転校してくることになりました、春名さおりです。引っ越しと転入手続きが遅くなって事前にお知らせができなくてごめんなさい。これからずっとよろしくお願いします」
クラス全員が教室が割れるような歓声を上げました。
「さおりちゃんずるいよぉ」
泣きながら、さおりに抱きついたつぐみを見て、またみんな笑いました。
山奥の小さな街に暮らしている、この二人の姉妹の心の中にも、ようやく本当の春が巡ってきたのでした。
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