第11話


「必ず、帰ってくるから……。今度はずっと一緒にいようね……」


 すっかり日も落ちてしまって、あたりはお家の窓から漏れる明かりと、玄関のポーチの明かりだけになって、その他は暗闇の中に溶けて消えてしまいました。


 さっきまで泣き続けて、なにもしゃべれなくなっていたさおりが、真っ赤になってしまった目で恥ずかしそうに笑顔を見せました。


「明日って……、何時頃出るの?」


「荷物はみんな置いていくので、お昼前には出るみたいです。出るときには挨拶に来ますから」


 放っておくと、また三人とも泣き出しそうな雰囲気になってきそうなので、つぐみはあとの二人をお隣の玄関先まで連れていくことにしました。


「それじゃ、また明日ね」


 つぐみも決して悲しくなかった訳ではありません。でも、妹が泣き出してしまった手前、自分が泣き出してしまっては、誰も落ち着ける人がいなくなってしまうと、わざと気丈な態度を取っていたのです。だから、この言葉を言ったとき、つぐみはもう笑顔を返すだけの元気は残っていませんでした。


「お姉ちゃん、明日どういう顔して会えばいいのかなぁ……」


 お家に帰って、また二人きりになると、まなみは深くため息をつきました。


「いいじゃない。普通に笑っていってらっしゃいって送ってあげようよ」


 つぐみは、まなみにお風呂で泣いた顔を洗ってくるように言いました。妹がリビングから出ていくと、つぐみはまたエプロンを付け直してキッチンに向かいました。



 翌朝、チャイムが鳴り、玄関先で用意を終えたさおりが待っていました。


「おはよう~」


「もう出かけるんだ」


「はい」


 今日の天気は、三人の気持ちを少しでも和らげるように、きれいに晴れ渡っていました。これがもし、雨でも降っていれば、自分たちも泣いてしまうだろうなとつぐみは思っていました。


「元気でね……。いつでも遊びに来てね」


「はい、必ず遊びに来ますね。手紙も絶対書きます」


「約束だよ? 私も書くから」


 キッチンから小さな袋を持ってきたつぐみが話に加わりました。


「まなみが手紙書くなんて珍しいよねぇ。あ、さおりちゃん、これ私から。昨日の夜焼いたの。失敗しちゃってたくさん作れなかったけど」


 彼女の焼くクッキーはクラスの中でも凄く評判がいいのです。それをつぐみはさおりのために、ほとんど寝ずに作っていたのでした。


「今度遊びに来たら、このクッキーの作り方教えて下さいね」


「うん。誰にも教えたことないんだけどね」


 時間になって、とうとう彼女がさよならを言う時間が来てしまいました。


「今度はわたしのところにも遊びに来て下さいね。わたしもここに帰って来られるように伝えてみます」


「うん、必ず帰ってきてね」


「いってらっしゃい」


「はい。行ってきます。またお会いしましょう」


 さおりは、最後にそう言い残すと、待っていた車に乗り込みました。車はすぐに動き出して、ほどなく二人の視界から消えてしまいました。


「行っちゃったね……」


「まなみ、よく泣かなかったね」


「お姉ちゃんだって目が真っ赤だよ?」


「私は寝てないもん」


「うそだぁ~」


 二人は車が行ってしまった方向をいつまでも見送っていました。



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