第7話

 次の日曜日、まなみとつぐみはさおりを誘い、森の中のまだ雪がうっすらと積もっている道を奥へと進んでいきました。


「いつもこんなところで遊んでるんですか?」


 さおりは、周りを見回しながら目を輝かせます。


 彼女がこちらに越してきてから1週間が経ちました。


 相変わらず夜にはうっすら雪が積もる日もありますが、それでも日に日に暖かくなっていくのが、都会よりもハッキリ分かるのです。そして、冬の間、枯れたようになっていた木々の間から、ところどころに春の草の芽が吹いているのが見えるようになりました。


「そうだね、でも地元の人しかこの辺は知らないよ。あ、でも迷子になることはないから安心してね」


 今三人が歩いている道は、この森の管理用の仮設道路なのです。ですから普通の道路地図には載っていません。でも、この森でいつも遊んでいるまなみたちは、この道を知り尽くしていましたし、管理者の人たちも知らない動物たちの通り道も知っています。そのため、今までこの二人がどんなに森の奥深くに入っても、迷子になって帰れなくなることはありません。


「さおりちゃん、寒くない? 足下が砂利道だから気をつけてね」


 つぐみは、この1週間で自分と同じように、体力にはまだ自信のないさおりに親近感を持ったようでした。もっとも、お隣さんで、毎日一緒に学校に通い、教室も一緒とあっては、仲もよくなるのが当然とも言えるのでしょうけれど。


「雪が少なくなったので大丈夫です。この1週間でずいぶん雪道にも慣れました」


 冬の一番厳しい時期ではないので、三人とも足下はショートブーツを履いていました。学校に行くときは、雪だまりを避けながらスニーカーで歩くことも出来るようになりましたが、さすがに雪解けでぬかるんでいるところもあるここではまだそうもいきません。


「もうすぐだからね。音は聞こえるでしょ?」


 先頭のまなみが立ち止まりました。確かにすぐ近くで川のせせらぎが聞こえています。


「あれぇ、どっから入るんだっけ。確か道があるはずなんだけどなぁ……」


 まなみはまわりをきょろきょろしています。どうやら夏場とは多少景色が違うので、川辺に出る道を探すのに手間取っているようでした。それでも、5分としない内にいつも目印にしている木を見つけると、石に腰掛けて待っていたつぐみとさおりを呼びに戻ってきました。


 三人が降りたところは、細い渓流の脇の岸辺でした。まわりは比較的大きな岩がたくさんあるのですが、なぜかそこだけは、小さな石が溜まっている場所で、それが平らな広場になっているのです。流れもここだけは緩やかなので、確かに遊び場にはもってこいです。それに、地元の人でもあまり知らないこの場所は、観光客に荒らされるということもありませんでした。


「夏はね、ここに家族でお弁当持ってきたりするんだよ。お水もきれいでそのまま飲めるしね」


 さおりはトコトコと水辺まで行くと、その場でしゃがみ込みました。


「こんなきれいな川の水、初めて見ました。それに雪解けだから凄く冷たい…」


「ねぇ、ここならお魚採れるかな?」


「これだけお水がきれいなら、渓流のお魚がいます。ここなら危なくないし大丈夫でしょうね。暖かくなるのが楽しみですよ」


 さおりは、心配そうなまなみににっこり笑って答えました。


「やったぁ、ここはクラスの男子も知らない場所だし。自慢できるよぉ」


 まなみは飛び上がって喜びます。大人しそうな顔をしていながら、まなみは結構男の子たちと張り合うことも多いのです。


「ねぇ、まなみ。そろそろお昼にしない?」


 今にも川に入ってしまいそうな勢いのまなみに、つぐみがまったをかけました。


「そっかぁ、もうお昼の時間なんだね…」


 すっかり夢中になっていたまなみは、お腹が空くのも忘れて興奮していたのでしょう。恥ずかしそうに戻ってくると、乾いた石の上に腰を下ろしました。


 つぐみが重そうに持ってきたバスケットから、保温のお弁当箱に入れたカラフルなおにぎりと、フライドチキン。ポットに入れてきた紅茶を取り出しました。


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