第6話
「あ、こんなのんびりしてると、バスに乗り遅れちゃう。早く帰らないと!」
つぐみがハッと気づいて、三人が河原を急いで駅前に駆け込んだときには、もうバスが来ていました。なんとか飛び乗ると、後ろの席に座ってほっと息をつきました。
「本当はもう1本後でもいいんだけどね。今日はいつも通りに帰った方がいいでしょ?」
ここから三人が降りるバス停までは約十五分かかります。さおりは外を見ながらこんな話を始めたのです。
「わたしが前に住んでいたところでは、あまり自然の中で遊んだことはなかったんです。でも、ここより汚かったですけどそれなりの川もあったし、その土手で小さい頃、お友達も一緒になって遊んだこともあったんですよ」
「そうだったんだ…。私たちの所には川もなかったよね。小さな公園だけだったよ」
つぐみは昔のことをふと思い出しながら言いました。
「でも、わたしが病気になって、何度も病院にもかかったんですけど、学校がお休みになると、いつも行っている所ではなくて、郊外にあるその病院の療養所で過ごすこともあったんです」
そこまで言うと、さおりは寂しそうに顔を曇らせました。今でさえ中学生ですが、さおりの話では小学生の頃だと思われました。人里離れた療養所では寂しかったのかも知れません。
「でも、そこはものすごくきれいな場所で、川の水も澄んでいて、お魚も住んでいました。こう見えても、地元の子から釣りなんかも教わったんですよ?」
とたんにまなみが目を輝かせました。
「ホント? この辺の川にはみんなお魚がいるからね…。今度釣りを教えて! クラスの男子誰も教えてくれないしさぁ……」
「分かりました。今度やりましょう。場所はお任せしますけど」
さおりもにっこり笑ってくれました。
「この時期はまだお水が冷たいので、どうでしょうか……。でも、釣れるとは思いますよ。あ、話がずれましたけど、そんな生活だったので、高学年になるとお友達も減りました。わたしの地区は中学受験も多かったので、こんな私に構ってる時間はなくて、みんな塾に行ってしまいましたから……。なんか、さっきの河原を見ていたら、小学校の頃を思い出してしまいましたから……」
バスは駅前の商店街を抜けて、静かな森の方へと抜ける道に出ます。
「ここも最初は寂しいかも知れないね。はっきり言って何もないところだから。でもすぐに慣れると思うよ」
その後、明日からの学校のこととかを話しているうちにバスは三人が降りるバス停に到着してしまいます。
バスを降りて家の方まで歩いていくと、ふとさおりが足を止めました。
「どうしたの?」
「この辺に川があるんですか? なんか音がしたので…」
朝はここを慌てて走っていたので気が付かなかったのでしょう。
「うん。でも道路沿いじゃないから地元の人しか知らないよ。あまり大きくはないけど、水もきれいだし河原でお弁当とか食べられるよ」
「ただねぇ……、森の中抜けていくから、雪がどうなってるか……。今度見に行ってみようかなぁ」
まなみとつぐみの話に、さおりは顔をほころばせながら聞き入っていました。
「わたし、学校に行けるように頑張ります。ここなら私でも頑張って行けそうな気がするから……」
最後に彼女の家の前に着いたとき、さおりは二人に言いました。
「そうだね。私たちも協力するから」
朝とは違って、さおりは笑顔で自宅の中に入っていきました。
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