第5話
「なんか、山奥の学校って感じだね?」
さおりは正門の所から、校庭を見回しました。山の中とは言え、この辺りは少し開けた場所で、道を1本挟むと川も流れている場所です。そして、さおりが一番驚いたのは、小学校と中学校が隣同士で建物があるのですが、校庭は一緒であるということです。
「中学になって、制服が強制されてなくて私服登校がOKなのは、一つはこれもあるんだよ」
つぐみはさおりを職員室に案内しながら話しました。
「じゃぁ、みんな小さい頃からの友達って言うのが多いんじゃないですか?」
「それはどうかなぁ……。それじゃまたあとで教室でね」
さおりを担任の先生の所まで連れて行くと、つぐみは廊下で待っているまなみと一緒に、急いで教室に走っていきました。
「あいつら、今日は遅刻1回得したな?」
先生は、慌てて走っていく二人を見ながら笑いました。でも、その顔は都会とは違って、どこかのんびりとしています。
「中学校と言ってもな、全部で五十人しかいないから、こんな立派な校舎も要らないんだけどな。それでも、一時期はたくさんいたもんだよ」
人のいいおじさんと言った感じの先生は、さおりを教室に連れていきながら話してくれました。
「ここの生活にもすぐに慣れるだろうな……」
そこまで話し終わったタイミングで教室に到着しました。
先生は、扉を開けると、さおりも一緒に入ってくるように促しました。
「急に決まったんで、突然だが転校生君だ。みんな仲良くしてやってくれよ?」
転校生にお決まりの挨拶が済むと、先生は一言付け加えました。
「春名君は体が良くないから、あまり最初は無理をさせないようにな」
ホームルームが終わると、これもお決まりのように、さおりはクラスメイトからの質問責めになりました。
「ダメよ、あまり最初からそんなプレッシャーかけちゃぁ」
まなみは言いますが、あまり心配はしていませんでした。彼女たち姉妹も同じ事があった事でした。それに、二人も分かったことですが、この学校では転入よりも転出していく方が絶対的に多いのです。転入はまなみたちのような都会からの転入は少なく、廃校になった学校からの合流の方が多いので、さおりのような他所からの転入は久しぶりだったのです。
「どーでもいいけどさぁ、またフリフリが一人増えたなぁ?」
「いいじゃん、似合ってるんだから文句無しよ」
この学校は、各地からの合流受け入れ校なので、制服が統合されていません。統合前の制服を着てもいいし、私服でも構わないことになっているため、生徒たちは普段着で通ってきていたのです。
確かに、まなみやつぐみのような、フリルやリボンの付いた服というのは、夏休みなどに避暑に来る子たちがほとんどで、この辺の子供たちには少ないのです。
最初は珍しがられた洋服でしたが、最近はすっかり周りになじんでいるので、さおりの真っ白いワンピースも不思議と目立ちませんでした。特にこの学年は、周りの女の子たちもまなみたちと同じような服を選ぶ子が増えてきたので、難なく受け入れられたようです。
「どう? 心配要らなかったでしょう?」
「うん……」
つぐみが、昨日さおりが心配していたのを安心させた理由がさおりにも分かりました。
クラスメイトはつぐみやまなみの時に、さおりと同じ病気の子を受け入れたことがあるので、そのことを分かってくれていたのです。それと、さおりは知りませんでしたが、昨日の夜、まなみとつぐみはクラスメイトにさおりのことを伝えておいたのでした。
その日、授業が終わると、三人はクラスメイトに挨拶をして、川沿いを駅まで歩いていくことにしました。帰り道に買い物をすることも多かったし、駅からの空いているバスが一本多く出るので、晴れた日はそれにいつも乗って帰ることにしているのです。
「どうだった? 賑やかなクラスだと思うけど……」
山間の場所だけに、夕焼けが平地より少し早いのでしょう。空は少しずつ夕焼けに向かうところでした。
「初めてだったのに、平気でした。ここなら頑張れそうです」
「そう、それは良かったよね」
「そうだねぇ、もう学年末テスト終わったのもあるだろうなぁ」
まなみは小石を川に向かって投げながら言いました。
「でも、この辺じゃあまり成績のことはうるさく言わないけどね……。勉強したい人は中学に上がる時に引っ越しちゃうもの……」
つぐみの寂しそうな顔を見ると、さおりは何も言えなくなってしまいました。
「でも平気だよ。仲良したくさんいるからね」
「早く雪解け来ないかなぁ……」
まなみが河原を見ながらつぶやきました。
「春になるとこの辺もきれいなんでしょうね」
さおりは初めて見る景色に色々思いを馳せたのでしょう。立ち止まって周りを眺めました。
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