第3話
二人がドアをノックすると、さおりのお母さんが出てきました。
「いらっしゃい。準備が出来たところですよ」
「あの、これお姉ちゃんが焼いたんですけど」
まなみは可愛く袋詰めされたクッキーを渡しました。
「あら、つぐみちゃんって言ったっけ? はじめまして」
つぐみもあいさつを終えると、お家の中に入りました。
「この子がさおりちゃんだよ」
まなみは暖炉の前に座っているさおりの前につぐみを連れていきました。
「はじめまして、つぐみです」
「さおりです。まなみさんのお姉さん?」
「そう、お姉さんって言っても、双子だから意味無いかも知れないけどね」
二人とも暖炉の前に座りました。このお家は、昔からの洋館建築なので、本物の暖炉があるのです。ふたりはこの暖炉の火に当たるのが大好きでした。
まなみは、もう一度、正面に座っているさおりを見つめました。
今はもう体も暖まったのか、顔色も良くなっています。でも、その透き通るような桃色がかった肌色や、長いスカートの下から見える白く細い足からも、どこか健康と言うことではなさそうに見えました。
すぐに、さおりのお母さんが紅茶の入ったポットとミルクの入れ物を持ってきました。
「今朝はまなみちゃんありがとうね。私たち、雪なんて滅多に降らなかったから」
さおりは朝のことを思いだしたのでしょう。恥ずかしそうに、顔を赤くしてうつむいてしまいました。
「私たちも来てはじめの頃は転んでばっかりだったよね」
「うん、お姉ちゃん運動が苦手だもんね」
「なによぉ、まなみなんかいつも走って転んでドロだらけだったじゃない。お洋服何着破いたか覚えていないの?」
そんな二人の会話を聞いていたさおりが、こらえきれなくなって吹き出してしまいました。
「ごめんなさい……、でもおかしくて……」
さっきまで、淋しそうな目をしていたさおりでしたが、今は本当に楽しそうに笑っています。
「ふぅ、本当にごめんなさい。私、一人っ子だから……」
さおりはうらやましそうに二人を見ました。
「そうかなぁ…、普通の姉妹とはまた別だからね」
「まなみの動物的勘には尊敬するから」
つぐみが言うと、その場の全員が吹き出してしまいました。
「そうですよね、どうやったら、あんなに雪の上で走れるんですか?」
「そうねぇ、何度も転んだからかなぁ…」
「私には絶対無理です!」
あまりにもタイミング良くさおりがはっきり言いきったので、残りの三人は笑ったまま何も言えなくなりました。
その夜、夕御飯やお風呂を済ませ、二人はつぐみの部屋で考え込んでいました。
「どうしたらいいのかなぁ……」
まなみは洗った髪の毛をゆっくり乾かしながら考え込んでいます。
「そうだよね、せっかく来たんだから何とかしたいよね」
二人は顔を見合わせます。その原因はあの後の会話でした。
「ねぇ、学校はいつから行くの?」
それを聞いたとたんにさおりの顔が曇ってしまったのです。
「ご、ごめんね、変なこと聞いちゃって…」
「ううん、いいんです」
さおりはすぐに顔を戻してくれました。
その時、さおりのお母さんがお昼ご飯の用意をしてくれたので、そこでお昼ご飯になりました。
「わたし、昔から体が弱くて……、学校をいつもお休みしていたんです。それで、少しでも体にいい場所にとこちらに引っ越してきたんです……」
そこまで聞いて、まなみはさおりに抱いたイメージに納得がいきました。
「でも、学校の方は行けそうなの?」
「はい、学校には明日から行けます。でも、春休みまでは試験的な登校で、その後は検査の結果次第になります」
二人はそこまで思い出すと、心配そうな顔を隠せませんでした。もし、春休みまでの間に、また発作が出たりすると、病院に戻らなければならないという内容だからです。
もしそんなことになれば、せっかくお隣に越してきた友達にとっても悲しいことに違いありません。
それに、さおりは今でも学校を休みがちで、仲良しの友達がなかなか出来ないとも話していました。
「一緒のクラスになるのは間違いないだろうけどね、みんなに受け入れてもらえるといいよね」
つぐみもまなみも小学校の頃に、やはりさおりと同じく、体を壊して学校に行けなくなってしまった経験を持ちます。体を治すために、この場所に住まいを移してから二人とも元気を取り戻すことが出来たのです。
「あのクラスだから大丈夫だと思うけれど、明日から協力しないとね」
その晩、まなみはつぐみのベットで一緒に寝ることにしました。小さい頃はいつも一緒の部屋で過ごしていた二人でしたから、今でも同じ部屋で寝ることはよくあることです。
「おやすみお姉ちゃん。明日から楽しくしようね…」
まなみはつぐみの胸元に顔を埋めて目を閉じました。
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