第2章 4月になる頃に…
第1話
(初出:「4月になるころに」2000年)
「ばいばーい。またね~」
山奥にある小さな街、その街の外に広がる森の中、1台のバスが二人の女の子のお客さんを降ろして、停留所から動き出しました。
「お姉ちゃん、また降り出してきたみたい…」
「本当、今年はよく降るね」
二人の女の子はバスを見送ると、雪が積もった道を歩き出しました。
この二人の女の子の名前は、お姉さんのつぐみと、妹のまなみ。顔や性格は少し違いますが双子の姉妹です。このあたりでは子供の数も少なく、学校もバスで通います。近くに学校の友達が少ないこともあって、二人はお互いが一番の友達でした。
学校の帰りなので、二人とも片方の手には通学用の鞄を持って、もう片方の手には、町のお店でしてきた買い物の袋を持っていました。
春になれば、自転車でお散歩のついでに行くこともできるのですが、この山の中では3月になってもまだたくさん雪が積もっています。
「今年は春が遅いかもね…」
つぐみは隣を歩くまなみに話しかけます。
「うん。でも、みんなそろそろ冬眠から覚めちゃうから、こんなお買い物しちゃったけど、まだ寒いよね…」
二人の両親は昼間働きに出てしまっているので、学校がある日はこうして、時々買い物をして帰るのです。そのついでに、今日のまなみはペットショップに寄り道をして、木の実やひまわりの種などを買い込んだのです。この二人はペットを飼っているわけではありません。森に住んでいる、二人の友達のためでした。
学校の友達が周りにいないと言うくらいですから、普通のお友達ではありません。
二人のお庭の周りの森に暮らしている動物や小鳥たちのことでした。
でも冬の間は冬眠してしまうせいか、庭に来てくれる数もずっと減ってしまいます。
「みんなたっぷり食べて、来年の春に会おうね」
まなみがそう言って、みんなを見送ってからもうずいぶん経ちます。でも、中には冬でも冬眠しない小鳥などがいるので、まなみもつぐみも、冬場こそ餌台の上から食べ物を切らさないように気をつけていました。姿を見せてくれる友達の数は減るし、食べる量も減りはするのですが、冬山の食べ物を見つけるのが大変なこの時期に、この餌台は大切な食堂なのです。
そして3月になって、この山の中でももうすぐ春がやってきます。お腹を空かせた友達が庭にやってくるまでもう少しです。まなみはそんな時のために今日の買い出しをしてきたのです。
雪だまりをよけながら、二人はようやくお家の入り口が見えるところまでやってきました。
「あれ? お姉ちゃん……」
「うん。お引っ越しなんて聞いてなかったよね?」
お隣のお家に、トラックが1台停まっています。その荷台には、どう見ても引っ越しの荷物が乗っているのです。
「都会の方から来たのね。懐かしいにおいがする…」
つぐみはトラックの荷台からほんのわずかに匂う都会のにおいを感じたのでしょう。
二人とも体を壊してしまう前は、今とは正反対のコンクリートの森の中で暮らしていたのです。
「でも、お隣のおじいさん何も言ってなかったよね?」
このお隣の家には、優しいおじいさんが住んでいました。二人にもとても優しくて、ついこの間も二人がお昼を作りに行き喜んでくれたときにも、どこかに行ってしまうとか、誰かが来るような話はなかったのです。
「おかえりなさい、まなみちゃんつぐみちゃん」
突然後ろから聞き慣れた声がして、二人は振り向きました。
「あ、こんにちはおじさん」
声をかけてきたのは、今話していたこの家のおじいさんです。横には一緒に暮らしている立派なセントバーナードのジェフがしっぽを振っています。森の動物たちと同じく、この大きな優しい目をした犬も、二人の大事な知り合いです。
「誰か来たんですか?」
まなみはジェフをなでながら尋ねます。
「ああ、急に孫と母親がなぁ。ちょうど二人と同じくらいだから、仲良くしてくれると嬉しいんだがねぇ」
おじいさんはお家の2階を見上げて言いました。
「あ、あの子ですか?」
つぐみは見上げた先の窓に、一人の女の子が座って外を見ているのを見つけたのです。
「いつも迷惑かけてすまないが、あの子の友達になってもらえると良いんだがなぁ」
「はい、私たちもお友達少ないから、もし許していただけるなら嬉しいです」
姉妹はにっこりと笑って、自宅へと帰っていきました。
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