第4話
梯子を下りると、その場所はまだ崩れたばかりらしく、地面が固まっていなくて、足を踏み出すとはっきりと跡が付くくらい、まっすぐ歩けるようなものではありません。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「うん、このくらい大丈夫」
「お姉ちゃん、靴とか洋服、あとで大変だよ?」
「そんなことより、早く助けてあげなきゃ。いつ次に崩れて来るか分からないよ」
つぐみは、崩れた崖の方を見上げます。まだ危なそうな場所もあるので、また雨でも降れば、すぐに崩れてしまうでしょう。
二人はようやくお母さん鹿がうずくまっている小さな穴の前に着きました。
「ちょっとごめんね」
まなみは小さな穴から中をのぞき込みます。
「どう? 大変そう?」
まなみは顔を壁から離すと、
「この中ってもともと穴が空いていたんだね。そこにすっぽり入ってるから、入り口が塞がれちゃっただけみたい」
「でも、この土をどけても、上から崩れてこないかなぁ」
つぐみは上を見上げます。もし上手くこの穴を塞いでいる土を取り除けたとしても、上からまた崩れてきてしまっては、余計に危なくなってしまうかも知れません。
「仕方ないよ。それじゃ上から崩していこうよ。ちょっと大変だけど、二人なら出来ると思うから」
まなみはそう言うが早いか、少し上の崩れそうな土を脇の方に崩し始めました。
つぐみはまなみの足元が崩れないような場所から、穴を広げることにしました。二人ともお休みの日はお父さんと一緒にお庭のガーデニングなどを手伝うので、スコップを使った作業には慣れています。
「お姉ちゃん、そこから先は崩さないで。わたしが落ちちゃうから」
まなみは下をのぞきながらつぐみに注意します。
そして上の土を落とし終わると、つぐみのすぐそばに飛び降りました。
「もう大丈夫だからね」
つぐみは、穴の中に手を入れて、子鹿をなでています。
「お姉ちゃん、そのまま放しちゃダメだよ!」
まなみははまっている穴を少しずつ大きくします。そして、ようやく通れるくらいの穴が出来ると、まなみは穴の前に座り込みました。
「出ておいで。もう大丈夫だから」
それでも、なかなか子鹿は動こうとしません。脅えたようにその場に座り込んでしまっています。
「やっぱり脅えちゃってる。それにずいぶん長いことこの中だもんね」
「でも、このままじゃまた危ないよ」
まなみは少し考え込んでいます。どのみちこのまま放っておくことは出来ません。様子を見ても弱ってしまっていることは明らかです。
「お姉ちゃん。その上掛け貸してくれる?」
「なにするの?」
つぐみは、一番上に着ていた薄い上掛けを脱いで妹に渡します。
「見えないようにして、一回お家に連れていこうよ。弱ってるみたいだから、手当だってしなきゃならないし」
そう言いながら、まなみは受け取った服で、子鹿の目を隠しました。普通ならこんな事をされれば、暴れるのでしょうが、相手がまなみとつぐみの二人だけだと言うことを分かっているのか、おとなしくしています。
「それじゃこのまま出すよ。上の一輪車用意しておいてくれる? そのまま乗せて連れて行くから」
つぐみは言われたとおり、先に斜面の緩いところを崖の上に上がりました。
しばらくすると、まなみは子鹿を抱えて運んできました。
「もう大丈夫だからね。しばらくお家で手当するけどいい?」
落ち葉を敷いた一輪車の上に子鹿を載せ、着た道をまたお家の方に運んでいきます。そして、家の庭に出る所まで着いたとき、つぐみは、そばでずっと見ていたお母さんの鹿に尋ねました。
お母さん鹿は最初は不安そうな表情でしたが、しばらくすると、振り向きながら森の奧に消えていきました。
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