第2話
ある日の午後、いつものように二人がお庭に出てくると、それを待っていたように、動物たちが姿を見せました。でも、何となく雰囲気がいつもと違います。
「どうしたんだろう、何か変だよ」
まなみは、その空気をすぐに感じ取りました。
「何か悪いことでも起こるのかな」
つぐみも不安そうな顔です。
自然の中で元気を取り戻した二人の体は、ほんの些細な空気の違いも感じ取れるようになっています。雨も風も、台風や地震の兆候すらも、森に暮す友人たちは教えてくれていました。そして、その予想は外れたことがないのです。
今、この家には二人しかいませんでした。お父さんもお母さんも、町に働きに出ていて、夜まで帰ってきません。
いつもは通いのお手伝いさんもいてくれるのですけれど、今日はお休みを取っていてつぐみとまなみの他は誰もいませんでした。
それでも、今日の森の動物たちの雰囲気は二人には無視できないほどだったのです。
「ねぇ、何があるの? 教えてよ」
まなみは森に向かって大きな声で呼びかけます。
「まなみ、なに、あれ?」
つぐみは森の中でガサガサ動く何かを見つけたのでした。いつも二人の場所に来るような動物たちとは大きさも違う感じです。
その音は茂みの中で止まってしまいました。
「何だろう、見てみる」
「まなみ、危ないよ」
つぐみが止めるのも聞かず、彼女は音が止まった茂みに近づきます。
「なんだ、珍しいね。ここまで来るなんて」
まなみは急にいつもの声に戻りました。
「出ておいで。お姉ちゃんも、平気だよ」
「本当に平気?」
つぐみも恐る恐る妹のそばに近寄ります。
「何がいるの?」
「あそこ見て、茶色の耳が見えるでしょう?」
「あ、ホント。へぇー」
つぐみも安心して顔をほころばせます。
茂みの中に潜んでいたのは、一頭の鹿だったのです。しかも、よく見ると子鹿を連れたお母さんです。
「どうしたの? いつもこんなところまでは出てこないのに?」
まなみは優しく話しかけます。
それと同時に、普段奧まで入っていかないと姿を見せてくれない来訪者だけに、まなみはますます何かあったと感じてしまうのです。
「お姉ちゃん、わたしちょっと行ってくる。絶対何かあるよ」
振り向いて行きかけるまなみの腕を、つぐみはつかみました。
「待って、帰って来られなくなったらどうするの?」
「平気だよ。天気とか地震だってここまで出てこないんだよ。それに何か助けを呼んでるみたいにも感じるし。それに……」
「それになに?」
それには答えず、まなみは何かを探すように辺りを見回します。
「お姉ちゃん、どうする? 私は行くよ。たぶん私を呼びに来たんだと思う」
「ちょっと待って、玄関閉めて来ちゃう」
つぐみは急いでお家に戻り、開けてあった扉を全部閉めて戻ってきました。
「いいよ」
「誰もいなくしちゃっていいの?」
「もともと今日は誰もいないんだもん、平気だよ」
「分かった。それじゃ私も行く」
つぐみも頷いて、まなみの後に続いたのでした。
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