第1章 森のともだち

第1話

(初出:「森のともだち」1999年)



 小さな町の駅前から、一本の道が木々の間に続いています。


 木に囲まれていると言っても、木漏れ日がたくさん落ちているため明るく、その中を道は奥へと続いています。


 その道のところどころにある小路の入り口には郵便ポストが立っているので、その奥に家が建っていることを教えてくれています。


 この辺りでは、メインストリート寄りではなく、十分なアプローチを作って静かな環境の中に戸建ての家を建てる人が多いこともあり、住人同士は顔や家族構成だけでなく、それぞれの環境も知っています。ですが、ふらりと通る旅客がいても、そこに住まう住人と顔を合わせることは珍しいことです。


 それも仕方のないこと。その昔には病気を治す診療所が近くにあったこともあり、その頃の名残もあって、あまり隣との距離を近くとることはしないで、落ち着いた環境の中で静養をしたいという意向の住人が中心となり家々が建てられていったことに由来していると言います。


 その中の一つの小路に入っていくと、広いお庭と、白い壁が特徴の大きめのお家が見えてきます。


 そして小鳥たちのさえずりに混じって、女の子の声が聞こえてくるのです。


「まなみ、紅茶入れてきたよ」


 テラスへの扉を開け、中学生くらいの女の子が出てきました。


 テーブルの上に、お盆に載せたティーポットとカップを置いて辺りを見回します。


「まなみ! どこにいるの?」


 彼女は次に木々の間にも通るような大きな声で呼びかけます。


「いま行く。ちょっと待って」


 森の中から声がすると、木々の間から、同い年くらいの女の子が出てきました。


「もう、また森の中で遊んでいたのね?」


「お姉ちゃんもおいでよ。絶対に気に入るから」


 まなみと呼ばれた女の子は、その大きく澄んだ瞳を輝かせて言います。


「そうかなぁ、まなみとは違うから……」


 そんな興奮冷めやらない妹のカップに紅茶を注ぎながら、お姉さんと呼ばれた方の彼女は首をかしげました。



 この二人の女の子は、江森つぐみとまなみの双子の姉妹でした。双子と言っても、二卵性の双子なので、姉妹かと思われてしまうこともよくあります。


 そして、性格も違っていました。


 お姉さんのつぐみは、普段着にフリルを多くつけたワンピースなどを着用して、髪には白い飾りリボンの姿がそのまま性格になっているような大人しい性格をしています。でも、さすが小さい頃からお姉さんとしての自覚があるようで、考えることは芯が通って頼りにされるような存在です。


 そして一見、子供らしい服を着て、つぐみよりも大きな白いリボンを付けているまなみの方は、そんな外見からおとなしそうな顔をしているわりには、普段から森の中であそんでいるなど元気がよすぎて困ってしまうくらいで、時々みんなをびっくりさせてしまうほど。


 それでも、つぐみとまなみの二人は本当に仲良しで、この山奥の小さな町でも有名でした。



 幼い頃、都会の生活で体調を崩してしまった二人のために、家族で探したこの土地の家に越してきてから、ずいぶんの月日が経っています。



 今では二人ともすっかり大きく、元気な子に育っていました。しかしながら、子どもたちの少ないこの土地では、他にお友達も少ないこともあり、この森の中の生活では、つぐみもまなみも、お互いが一番の友達であり理解者でもありました。


 学校まではいつもバスで通うので、登下校の途中で学校のお友達と遊ぶというわけには行きません。


 ですから二人のお友達は、森の中の中にいました。まなみは、お庭に遊びに来るリスや野ウサギのためにいつも餌をあげていましたし、そしていつの頃からか、森の中に入って遊ぶようになっていたものでした。


 そして、いつも大人しくお家の中で本を読んだりしているつぐみも、ベランダに来る小鳥たちと仲良くなっていたのです。



 二人が庭のテラスで、こうして紅茶を飲んでいるときでも、最初はなかなか近寄ってこなかったリスたちが、今ではすぐそばまで近寄ってきます。


「ほらおいでよ、おいしいケーキ焼けたんだから」


 まなみは、さっきつぐみが作って出してきたばかりのパウンドケーキをちぎってテーブルの上に撒いてあげます。


 リスがテーブルの足をするする上り、二人の前でケーキのかけらを食べ始めます。


「ね、おいしいでしょ?」


 まなみが話しかけるのを、つぐみはニコニコしながら見つめています。二人は学校から帰ると、いつもこのようにして、お庭に来る小さなお客様の相手をしていました。


「ねぇ、お姉ちゃんも今度おいでよ。いつも楽しいんだから」


「うん、今度案内してもらおうかな」


 こんなふうに、まなみとつぐみの二人はいつも森の動物たちと放課後の時間を過ごすのでした。

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