0-1 一日目 挨拶
ここには、体の一部に動物の容姿を持った人間である
ある時期から世界中で「普通のヒト」から産まれるようになったとされる彼らは間もなく、その珍しさや様々な「価値」から事件に巻き込まれるようになった。そこで人類は、彼らの命と権利を守るために保護を始めた。保護された
……たしか、そうだ。高校生の頃に、そのように習った。気がする。
それから月日が経ち二十代も後半に差し掛かった今、私はここ――
とある県のとある市役所に勤めていた私は、所内掲示板に貼られていた「この仕事」の公募を見掛け、興味を持って応募し、筆記試験と面接を経て合格した。
新たな勤務地は、
新天地に飛び込む緊張と興奮を胸に、これから上司となる男性の大きな背中を、カルガモの子供みたいに必死に追う。重たいキャリーケースが、急ぐ私に意地悪をしているようでとても憎い。垂らした前髪が汗ばんだ額に張り付くのをしきりに直した。ポニーテールは乱れていないだろうか……。
うららかな春の金曜日。あと一分もせずに私が挑むのは、新入生の最初のイベント「初日挨拶」である。
教わることは多いし、色々な人に迷惑も掛けてしまうだろう。
しかし、この職場を望んだ気持ちは本物だ。
どんな困難でも乗り切ってやる!
「
自己紹介をした後、深く頭を下げて「よろしくお願いします!」と声を張った。
一瞬の間の後、拍手を浴びる。
――うん、悪くない出だしだ。
その後、別室で管理局員としての仕事の概要説明を受けることとなった。
ここは
前にいた市役所にもあったような少人数向けの会議室で、テーブルを挟んでイスに座って上司と向き合う。キャリーケースは、扉に近い隅に置いた。
上司の
そんな彼は、テーブルに置いた書類の束を幾つか取り出しながら、見た目によく似合う渋い声で新入生に質問を投げ掛けた。「
「えっと……
と、ハンサムで強面な顔がこちらを向いた。
驚いた顔をしている。
何かを待つような、二秒ほどの沈黙。
それから、
「それだけか?」
問い掛け。
新入生は苦笑いした。
「……はい」
それぐらいしかできない。
高齢化の進む地域の市役所に勤めていた私は、国と県の方針によって多く募られた県外からの移住者や外国人労働者の対応に忙殺されていた。「最後は引き継ぎだけ」などという甘えを許さぬ環境で最終日までしっかり残業した後は、いつまでもできずにいた転居の手続きを一気に片付けるので手一杯だった。私は、前職で身も心もボコボコにされた訳だ。次の仕事に向けた予習どころか、ゆっくり家具を選ぶ時間も作れないほどに。
また、募集要項にあった筆記試験は意外なことに公務員試験の教養科目レベルの内容であり、果たして面接試験も
これらの要素が重畳した結果、管理局で働くための下地がまったくない人間
そんな間抜けな真相を見抜いたかのように、
そして「こほん」と、せきともせき払いともつかない音を出した。眉間のシワが深くなったことで、ハンサム度が増している。
なんだか、あらゆる仕草が様になるヒトだな――
いや、そうじゃなくて!
「すいません。明日までに、ちゃんと勉強してきます!」
――あぁ、マズい。気持ち悪くなってきた。寝不足のせいもあるかも……。
「勉強はゆっくりでいい。転職も大変だったろう。無理はするな」上司は神様みたいな言葉を施すと、片手で着席するよう哀れな子羊を促した。
「実務の話からする予定だったが、まずは
おぉ。このイケオジ、強面に反してとても優しい人間だぞ。
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