■(9)外思念弁別機制
1990年代後半に、フォンス能力者が増加した事は動かぬ事実であるが、その大半は、コースフェルトの分類で言うならば、2群である。
3群と4群は、どちらが優れているともいえないが、2群と比較した場合、雲泥の差である。
2群であれば、どんなに強い力の持ち主であっても、発現できない場合があるのだ。しかも自覚しない場合が多い(科学文明の弊害でもある)。
どんなに弱くとも、必ず発現できる3群と4群には、基本的に勝らない。
必ず発現できると言うことは、周囲に認めさせる事が可能となる。自分を疑う機会が減るのだ。この、『外思念弁別機制』を持つ3群と4群は、2000年代後半から増加した。コースフェルトの理論が、再認識され始めた頃である。
5群の出現は、彼らが増加すれば、必然だった。
なお、外思念弁別機制が有効に働くようになったのは、『フォンス(超能力)』を信じる(はっきりいえば、認める、認めざるをえない)人間が増加したことで、集合的無意識から発掘され、再機能をはじめたのではないかと言われている。
失われていたが残っていた防衛機制だったのではないかと言われているのだ。失われていた理由は、人々が信じなくなった事はもとより、『その能力が発現すれば奇異の目で見られる』『魔女狩りにあう』等の中世からの恐怖と、非科学を排除しようとした科学信仰が理由だと言われている。
A群も、僅かに認められるようになってきた。
彼らは、時には5群との区別が困難であるが、能力使用の幅と強さが桁違いだったからである。
S群に関しては、当時確認されていたのは二名であった。
それは、『不老不死』だと考えられる人間であり、一人は『紀元前』から生きていたとの事であり、もう一人は、中世から生きていたとの事で、二人とも肖像画は古くから――写真は、その技術が現れてすぐに撮られた品を、本人達が貯蔵していた。
A群の不老長寿とは異なると判断された理由は、中世から生きているA群の人間が三名存在しており、彼らには老化が見られたからである。彼らの場合は、百年に一歳ほどは年を取っているようであった。
ところで、遺伝はしないが、一代限り生まれつき持つ――まるで突然変異と言わんばかりのこの能力の、数少ない継承手段と、能力を伸ばすための学習について触れる。
まず継承手段は、二つある。
遺伝子的に実の両親の双方がフォンスだった場合、その子供が生後六ヶ月までの間に、両親がそろってコスモスを用いると、能力が発現するのである。コースフェルト衝層圏を後天的に身につけることが出来るのだ。だが、その場合両親は、自由にコスモスを使用できるレベルに達していなければならない。よって、この手法で、能力を受け継いでいる家系は確かに存在するのだが、遺伝とは言い切れない。
もう一つは、師弟で例えると分かりやすい。
古来より、神秘的な力としてフォンスは理解されてきた。その中で、同じ流派に限ってであるが、師が弟子などを後継者として指名した際、弟子がコースフェルト衝層圏を有していなかった時、師は己のコースフェルト衝層圏を弟子に譲り渡すことが出来るようなのだ。
なお、譲った場合、師は確実に死亡する。
だから、死を前にして譲るという形式が多い。この場合であれば、師と弟子は、同じ能力しか使えない例のみ記録されている。
また、譲渡方法としては、『弟子の意識構造を書き換える』という作業を行っていると考えられるため、最低限5群に属し、弟子の精神構造をコスモスで把握し、ムーブで書き換えるという行為をしていると考えられる。これは、村に一人、呪術師がいて、選ばれし一人が継承していく、という体系の理解に繋がる。
しかし――古代日本人の受精卵による第一・第二世代は、遺伝的に能力を有している。また、古代日本の全ての人間が、少なくともコスモスを使用できたとするならば、遺伝的要素も考えられる。
仮に遺伝しない場合で、その状態であるとするならば、A群――いいや、おそらくはS群の能力者が、『生まれてくる全ての人間にフォンス能力を授ける』という力を使った可能性が高い。それは最早、神の御業と言えるだろう。
コースフェルトいわく、過去を改変する事は、S能力者であっても不可能であり、過去であっても未来であってもタイムトリップも不可能であるとの事である。
だから、『生まれてくる人間』と、なるわけである。
しかしコースフェルトによれば、例えS群の能力者であっても、『生物に影響を与える事』は大変力を消耗するとされていて、中でも能力の付与のような事柄は最高難易度かつ特別なメリットが無いため、あまり予測出来ないとの事だった。あくまでも仮説ではあるが。
なお、教育に関して他に挙げるならば、一般に『オカルト』と呼称される範囲に属していた各種の団体の教育である。秘密結社の魔術師や、魔女、各地の呪術師、日本においては陰陽道などである。神社仏閣の一部を含めることも可能だろう。中でも世界的に見れば、西洋の錬金術と、中国の神仙や道士に関連した錬丹術は、特別であると考えられる。
彼らは、コースフェルト衝層圏の知覚を目指していた可能性が高い。勿論、ただの迷信や、風変わりな人や病人、科学の先鋒が含まれていたことも否定できないが。
よってこれらの教育を振り返れば、秘儀参入を3群ないし4群の段階と考えた時、各宗派独自の教育により、5群相当まで力を瞑想などで伸ばすことが可能なのである。この事実は、その後、様々な宗教と共に、一風変わった隠秘哲学の復古に関わる事になる。
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