永遠の夏

夕雨 夏杞

永遠の夏

匂いを憶えているからいけない

いつまでも


届かないと知っていながら

何ひとつ欠けていない

さびしくない夢


畳の上に寝転がって

台所から笑い声

外から庭の水やりの音


一瞬のなかに永遠をみて

ぼんやりと、泣きそうになった


子どもたちは青を駆けていく

麦わら帽子が遠くで舞った

夕焼けは無邪気に襲ってくる


何かが起こるなら夏が似合うね

光の中で小さく笑った


いつしか、時を失っていた


もう聞こえない

耳をふさいでいるのはわたし


もう視えない

目をそらしているのはわたし


かなしさから守るため

さみしさを忘れるため


あの日々に置いてきた

それなのに


匂いを憶えているからいけない


閉じ込めてはなさない

永遠の夏

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永遠の夏 夕雨 夏杞 @yuusame_natuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ