第10話
***
俺は昂(たかぶ)る気持ちを抑え、探索を発動してコンビニの様子を確認する。
幸い状況に変わりはない。
ホテル周辺のモンスターを一掃したし、レベルアップも十分できた。
経験値の配分やスキルの確認は後でもできるので、とりあえず俺はコンビニに戻ることにした。
コンビニのドアからひょっこりと顔を出し、外を見ている夢綺渚の姿が見えた。
夢綺渚は俺を見つけるや否や、満面の笑みを浮かべて外に飛び出してくる。
俺はそんな夢綺渚を抱き上げた。
「一人で心細かったよね?ちゃんと約束を守ってくれてありがとう」
夢綺渚の頭を撫でると、彼女は俺の腕の中で元気に頷きながら囁く。
「怪物は皆死んだの?」
「ああ」
「さっき大きな音が聞こえたの!怪我してない?」
「大丈夫だよ。それってモンスターが死ぬ時に出した音だからね」
「わあ!本当?私もパパが怪物を倒すところ見たかったなあ」
「危険だから絶対にダメ!パパは怪物を倒す力があるけど、他の人は違うからね。攻撃されたら死んじゃうから、絶対に近づいちゃいけないよ。特に夢綺渚みたいに小さな子は、あっという間に食べられちゃうから。夢綺渚がそんな目に遭うのを想像するだけで、ゾッとして心臓が止まりそうになるよ」
可愛らしい額に指を当てて厳しめに言うと、夢綺渚は突拍子のないことを言い出す。
「パパってヒーローみたい!」
「え?」
夢綺渚は俺の心臓辺りに小さな手を置き、興味深そうに質問する。
「まだ心臓が止まりそうなの?」
「夢綺渚がいい子にしていてくれれば大丈夫だよ」
俺がきっぱりと答えると、夢綺渚が俺の左胸を撫でながら面白いことを言い出した。
「心臓さん、私がいい子にしていなくても、勝手に止まっちゃダメだからね?」
「何それ?そんなこと言わずに、ちゃんといい子にしていてくれればいいんだって」
「ヒヒッ、う、ううっ!」
頬を軽くつねると、夢綺渚は可愛い唸り声を上げる。
地面に降ろされた夢綺渚は、両手を挙げて頬を膨らませながら叫んだ。
「パパ!私っていつもいい子にしてるでしょ?」
確かに言われた通り、先ほどまでコンビニで大人しく俺を待っていてくれた。
どう返せばいいか分からない。
「とにかく、今日はここで寝るから物をどかしてスペースを作ろう。とりあえず、パパは割れたガラスを片付けるよ」
「分かった!」
そうして俺と夢綺渚の共同作業が始まった。
夢綺渚は床に散らばっている商品を1か所に投げ集め、俺は商品棚を手斧で割り、割れたガラスの隙間とドアを塞いだ。
モンスターを倒すよりも遥かに簡単な作業で、すぐに終わらせることができた。
しかし、寝るためには寝袋を用意しなければならない。
移動の際、荷物になるので、車のトランクに入れたまま放置していたが、今夜は使うべきだろう。
「夢綺渚、パパは車から寝袋を取ってくるから、そこも片付けておいてくれるかい?」
「うん!」
「絶対に外に出ちゃダメだからね」
「分かってるってば!パパの心臓を助けないといけないからね。何度も言わないでよ!」
そう言われても、何度も言いたくなるのが父親の気持ちというものだ。
俺はコンビニの外に出るや否や、探索を発動する。
相変わらず山の方には青い点も黄色い点も表示されず、裏門の方にも誰かがいる気配はない。
地下駐車場に近づき、もう一度探索を発動してみるも、黄色い点は表示されない。
これなら今夜は安心して眠れそうだ。
俺は簡単に確認を済ませた後、車のトランクから寝袋を取り出してコンビニへと戻っていく。
やがてコンビニの前に到着し、俺は用事を済ませるためにシステムウインドウを起動させた。
[能力値を配分してください。240]
[攻撃力:180-?]
[防御力:420-?]
まずは能力値を配分した。
方針に変わりはなく、俺は防御力に優先的に能力値を割り振る。
攻撃力に70、防御力に170。
すると、新しい能力値が適用されたシステムウインドウが現れた。
[広塚詠至]
[D級覚醒者]
[レベル20]
[HP:7530/7530]
[攻撃力:250]
[防御力:590]
[スキル]
[5秒ルールの連撃3/3]
[情報][連携]
[探索]
[隠れ身の術2/2]
[円形攻撃2/2]
[使用武器]
[キャンプ用の手斧 レベル5]
[攻撃速度 +4→+5.5]
[攻撃力 +35→+85]
HPの数値が目を引く。
7,530と、大幅に上がっている。
HPは命に直結するため、高いに越したことはない。
それに、今回は武器レベルも上がっている。
モンスターが持っていた石斧を一瞬使ったものの、主に手斧で戦っていたので当然だろう。
手斧のレベルは5。
攻撃力が50プラスされて85になった。
この先、攻撃速度が急激に伸びることはないだろうが、心強い結果である
手斧を使う時、俺の攻撃力は335まで跳ね上がるのだ。
手斧そのものも初期状態よりかなり威力を増している。
また、新しいスキルを2つ手に入れた。
1つ目は隠れ身の術で、すでに馴染みのあるスキルである。
このスキルのすごいところは、使用対象の存在自体を消して幽霊化させるという点だ。
しかしスキルが発動している間、攻撃ができないという弱点もある。
幽霊化することで実体が消えてしまうので、攻撃を受けることもなければ、繰り出すこともできないのである。
そんな致命的な弱点があるものの、誰の目にも見つからず、自分以外の人にも使用できるため、そこそこ使えるスキルとして記憶に残っている。
そして2つ目の円形攻撃は、周囲の一定範囲内にいるモンスターを攻撃できるスキルである。
2つとも回帰前に会得していたスキルであるため、新鮮さには欠ける。
しかし、回帰前と1つだけ違う点がある。
今回、俺はD級になった。
しかもこの世界で初めてD級になったのである。
そして、その特典として“インベントリー”が与えられた。
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