第9話
やがて前方に正面入口が見えてきた。
先ほど探索を発動した時は、範囲外だった場所である。
居住区とホテルの正面入口は道路を挟んで向かい合っているため、予想通り大量のモンスターがいた。
車体の前面から突っ込むだけでは足りないくらいの数だ。
このまま道路に出ればさらに速度を出せるので、より多くのモンスターを殺せるはずだ。
しかし燃料に限りがある上に、道路は避難民のせいで大渋滞になっているため、賢明な選択とは言えない。
それに夢綺渚を乗せた状態でモンスターや物に衝突すれば、その衝撃で夢綺渚が怪我をしかねない。
このまま運転を続けるわけにもいかないのだ。
今ここで最大限の効果を出せるように、別の方法を考えなければならない。
俺は一度深呼吸をした後、スピードを上げながらハンドルを切る。
すると、トラックがドリフトを始めた。
キィーッ——!
タイヤがすり減る音とともに、トラックが横に回転する。
そしてそのまま滑るように回りながらモンスターたちに衝突し、車体が傾いた。
その状態で入口のゲートバーに向かって突進すると、まるで掃き出されるかのように、トラックの側面に大量のモンスターが跳ね飛ばされた。
ゲートバーは粉々になり、5トントラックはそのまま隣の警備室に突っ込んだ。
ガガガガガガガッ——!
それでもトラックは止まらず、フェンスまで破壊するとようやく暴走を止める。
近くにいたモンスターたちは一匹残らず絶命していた。
ドンッ──!ガンッ──!ガガガッ──!ガッシャーンッ──!
車体を回転させると豪快な音が鳴り響き、相当な衝撃が車体を襲う。
フロントガラスが粉々に割れ、俺の体にもその衝撃が伝わってきた。
すると、HPが大幅に減り始めた。
[HPが100低下しました]
ゲートバーと警備室だけでなく、フェンスまで破壊した5トントラックは、モンスターの血を浴びたままあちこちから煙を出していた。
俺は最も大切な手斧を口に咥(くわ)えたまま助手席のドアを開けて脱出する。
今の暴走で正面入口の方にいたモンスターの半数以上が絶命し、トラックの周りは修羅場と化した。
殺したモンスターの数はざっと100匹以上だ。
そしてそのことを証明するかのように、再びシステムウインドウが現れた。
[E級レベル8になりました]
[E級レベル9になりました]
レベルが一気に9まで上がっていた。
F級モンスターを1匹や2匹殺したところで、レベルアップは見込めないだろうが、これだけたくさんのモンスターを殺したので、大幅にレベルアップしていてもおかしい話ではない。
しかしこのままF級モンスターばかり殺していては、いずれ成長速度にも歯止めがかかるだろう。
ただ今の時点では他の覚醒者たちはまだ状況が飲み込めておらず、このくらいでも十分上出来と言える成果ではある。
ほとんどの覚醒者たちは覚醒者の概念が理解できていないまま、F級モンスター相手に苦戦を強いられているはずだ。
彼らがシステムに慣れ、本格的に活躍を見せるのは、これからおよそ1週間後のことである。
その時点を境に、強者はさらなる成長を遂げることになる。
[広塚詠至]
[E級覚醒者]
[レベル9]
[HP:3020/3020]
[能力値を配分してください。320]
[攻撃力:80-?]
[防御力:200-?]
手斧の代わりにトラックを使っていたため、当然武器レベルは上がっていない。
もちろん能力値の配分は防御力を優先し、防御力に7割、攻撃力に3割を割り振った。
攻撃力に100、防御力に220。
モンスターは基本的に数十から数百匹の群れを成しており、レベルの高いモンスターの群れはかなり手強い相手となる。
そのため、そんなやつらに立ち向かうためには強力な防御力が欠かせないのである。
ある程度の攻撃に耐えられる防御力とスキルがあれば、大体のモンスターは太刀打ちできる。
逆に防御力が低く攻撃力だけが高ければ、もう少し早くモンスターを倒せるかもしれないが、大勢のモンスターが一度に襲いかかってきた場合は太刀打ちできない。
あちこちから攻撃が飛んでくるため、防御力が弱いとすぐに死にかねないのである。
回帰前は能力値を適当に配分していたが、今回は徹底して計画的に配分しなければならない。
探索を発動して確認したところ、夢綺渚がいるコンビニに特に変わった様子はない。
安心して戦えそうだが、今日はもう時間も時間なので、急いで戻ることにした。
そう決めた俺が向きを変えたその瞬間——
「グアアアア!」
1匹のモンスターが俺の前に立ち塞がった。
地下駐車場から飛び出してきたようで、F級モンスターとは全く違う見た目をしている。
頭に2本の大きな角がついており、真っ赤な目をしていた。
兵卒がいれば指揮官もいるものだ。
こいつがF級モンスターの群れのボスなのだろう。
明らかに格の違うやつだ。
[C級モンスター]
なんとC級もある。
郊外では珍しく、大物とも言えよう。
もちろん、東京の中心部ではA級やB級モンスターがモンスターたちを仕切っている。
そもそもゲートが開かれた場所であり、この先、絶対に近寄ってはならない場所でもある。
D級モンスターが仕切っていてもおかしくない、こんな郊外にC級モンスターがいるとは。
「グアアアアア!」
こいつは自分の部下、つまりF級モンスターたちを片っ端から殺した俺に相当な敵対心を抱いているようだ。
やつが咆哮(ほうこう)すると、大量のF級モンスターが俺の周りに集まってきた。
F級モンスターたちは俺を逃げられないように取り囲み、C級モンスターがゆっくりと俺の前に歩いてきた。
まるで今から仲間の仇を打つと言わんばかりの、堂々とした足取りである。
俺は先手を打った。
今の状態でC級モンスターの攻撃を食らってしまったら、即死しかねないのだ。
調子に乗ってモンスターを殺しまくったのがいけなかったのか。
C級モンスターが現れるや否や逃げるべきだった。
やつの存在にもう少し早く気づくこともできただろうし、その気になれば逃げる時間は十分にあった。
しかしためらっていたせいで、F級モンスターに取り囲まれた俺は逃げ場を失い、目の前にはC級モンスターがいるという絶体絶命の状況に陥ってしまった。
そのため、先手を打った俺は5秒ルールの連撃を繰り出すことにした。
5秒ルールの連撃を使えば、敵の動きを一瞬止めることができるのだ。
俺は5秒ルールの連撃でやつの動きを止め、やつの巨大な肩に乗って武器を持った方の腕を攻撃した。
5秒間、無数の連撃が続く。
ドスッ──!ドスッ──!ドスッ──!
高速で連撃を繰り出したものの、やつは傷一つ負わず、一切ダメージを与えられなかった。
俺は何もできないまま地面に飛び降りた。
やつはケロッとした顔で、俺に向かってゆっくりと近づいてくる。
絶対的な捕食者のようなその姿から、獲物を最後まで弄んでから殺そうという魂胆が窺える。
やつが石斧を振り上げると、その影が俺の体を覆う。
「クククッ、ハハハハハ!」
俺は笑い出す。
逃げられないわけでもない。
逃げるつもりがあったなら、もうとっくに逃げていただろう。
実は、試してみたい力がもう1つ残っていた。
回帰したその日、目の前に現れたメッセージ。
『あなたの父性愛により、回帰券が1枚支給されました』
『回帰特典が支給されます』
回帰特典。
これは継承されたスキルである5秒ルールの連撃を指すわけではなかった。
本当の特典は別にある。
スキルではなく、回帰者の俺だけが使える特典が。
[回帰前のレベル継承]
[使用時間3分]
[クールタイム24時間]
モンスターが襲いかかってきていたので、俺は迷わず特典を発動し、手斧を握り直した。
「グアアアア!」
C級モンスターが石斧を振り下ろす。
しかし、俺はそれをいとも簡単に躱した。
やつはまだ俺の変化に気づいていないようだ。
回帰前のレベルを取り戻した瞬間、あんなに強そうに見えたC級モンスターの攻撃がスローモーションのように感じられた。
まさにレベルの違いを感じた瞬間である。
俺は地面に座り込んだまま、やつの腕を手斧で薙ぐ。
グシャッ──!
先ほどとは比べ物にならないほどの力に、筋肉が裂ける音が響き、やつの腕が宙を舞う。
さっきまで全くダメージが入らなかったやつの肩が、まるで豆腐のように、軽い力でも簡単に斬り落とされた。
「バカめ」
実験は成功だ。
やつはあくまで実験対象で、つまり実験用マウスに過ぎない存在なのである。
俺はスキルを繰り出すことなく、やつに向かってひたすら斧を振り回した。
右腕、左腕、そして脚。
それからこれといった抵抗もできないまま、四肢を斬り落とされてしまったC級モンスターの胸に斧を振り下ろす。
ドガーン──!
C級モンスターはそのまま倒れ、絶命した。
回帰前、俺のレベルはB級だった。
今の時点ではB級は強そうに思えるが、5年後の世界ではB級の覚醒者はゴロゴロいる。
しかし今、この世界では誰も持っていない力なのである。
残っているのは、俺を取り囲んでいるF級モンスターたちだけだ。
残り時間は2分。
やつらを葬り去るには十分過ぎるほどの時間である。
やがてモンスターたちの血があちこちに飛び散る。
俺は手斧だけでF級モンスターたちを軽々と片付けた。
ここの住民たちの仇でもあるやつらを次々と斬り倒していると、目の前にメッセージが表示された。
[レベル20になりました]
C級モンスターを倒したことで、レベルが20まで一気に上がった。
[おめでとうございます。D級覚醒者になりました]
さらに、一瞬にしてD級になるという快挙を成し遂げた。
[スキル:円形攻撃を獲得しました]
[スキル:隠れ身の術を獲得しました]
[最短期間でのD級達成特典]
[システム“インベントリー”を獲得しました]
これが二度目の人生を生きていく俺の力だ!
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