第8話

ホテルの裏門に入った俺は、地下駐車場に向かって車を飛ばし続ける。

そして、そのままうろついているモンスターに突っ込んだ。

ドカーン——!

丈夫なSUVにもかかわらず、大きな衝撃が伝わってきた。

普通の人間だったら、ヘルニアを起こしてもおかしくないほどの衝撃である。


[HPが3低下しました]


しかし覚醒者である俺はわずかにHPが減るだけで済むので、好きなだけ衝突事故を起こせる。


俺は勢いに乗り、そのまま次から次へとモンスターに突っ込んでいく。

駐車場の入口辺りをうろつくモンスターたちを跳ね飛ばしながら、俺はハンドルを切り続けた。

ドンッ——!ドンッ——!ドンッ——!

モンスターが次々と跳ね飛ばされる。

時速100キロ以上のスピードで撥(は)ねられたモンスターたちは、あちこちに吹っ飛んだ。


モンスターたちが猛スピードの車に吹っ飛ばされている。

スカッとする光景である。

回帰前にはこんなに気持ちよくモンスターを倒したことなんてなかった。

だからこそ、なおさらスカッとする。


瞬く間に10匹を轢(ひ)き殺した俺は、速度を落とさずそのまま地下駐車場へと入っていく。

そして、集まって涎を垂らして群がってくるモンスターたちに突っ込んだ。

ドーン——!


[HPが20低下しました]


大事故並みの衝突を起こすと、HPが相当削られてしまった。

しかし、その分モンスターたちをたくさん殺したという意味でもある。


20匹ほどのモンスターの群れに突っ込んだ後、車の速度は徐々に落ちていった。

いくら4輪駆動でも、数が数なだけに負荷がかかっているようだ。


それに、図体のせいでまともに撥ねられたのは10匹にも満たない。

他は衝撃で吹っ飛ばされ、地面を転がっていた。

しかし、どうやら皆死んだようだ。

さすがはレベル1の雑魚なだけある。


車の方も車体が潰れ、煙が出始めていた。

攻撃力を失い、用済みとなった車を捨てた俺は手斧を手に歩き出す。

轢き殺されたF級モンスターの死体が辺りに散らばっていた。


俺は気を取り直して周囲を見回す。

ジイイイイ——!

モンスターの臓物と血で汚れたSUVのボンネットから煙が上がっている。

その場に生きているモンスターは1匹たりともおらず、皆死んでいた。

少なくとも、40匹以上殺したことになる。


その時、目の前にシステムウインドウが現れた。

レベルが上がったのだろう。

モンスターを退治したというメッセージが、レベルと一緒に表示されることはないのだ。


[モンスターを退治しました]

[E級レベル2になりました]


[広塚詠至]

[E級覚醒者]

[レベル:2]

[HP:950]


[能力値を配分してください。80]

[攻撃力:60-?]

[防御力:140-?]


F級の時はレベルが上がる度に能力値が40与えられたが、E級だと80も与えられるようだ。

レベルが上がるほど、ランクが高くなるほど圧倒的な強さを手に入れることができるだろう。

俺はいつも通り、防御力に多くの能力値を配分した。

攻撃力に20、防御力に60。


その後、俺は口を開けて襲いかかってきたモンスターの腹部に手斧を振り下ろす。

腹部が裂けたモンスターはその一撃で絶命し、俺は一歩下がって深呼吸をした。


先ほどまでSUVを武器に装備していたため、残念ながら手斧自体のレベルは上がっていない。

とはいえ、F級のモンスターを一撃で仕留められるようになったのは、満足のいく結果と言えよう。


俺は辺りを見回す。

先ほど思いついた妙案はSUVでモンスターを轢き殺すだけに留まらず、実行を果たすためにはひとまず地下駐車場から出る必要がある。


目の前に広がる地下駐車場の光景は修羅場そのものだった。

裏門から正面入口に繋がる地下駐車場には、車で逃げようとして失敗した人々の痕跡があちこちに残っている。

何台もの車が乱雑に停められており、車と車の間をモンスターたちがうろついていた。

そして、そのモンスターたちは俺を見つけるなり襲いかかってきた。

ドシッドシッ——

F級モンスターは走っても、一般的な成人男性ほどのスピードしか出ない。

俺は落ち着いてモンスターたちの体を次々と斬りつけ、駐車場の外に向かって走っていく。

先ほどSUVでモンスターを一掃したため、裏門の方に近い入口は比較的静まり返っていた。


その間にも俺は探索を発動し、夢綺渚の状態を確認する。

コンビニがある位置に青い点が表示されており、周囲に危険要素は見当たらない。


時々予想外の行動をしたりもするが、夢綺渚は基本的に賢い子だ。

コンビニの外には出ないと約束した以上、我慢の限界が来ない限り、心配は要らないだろう。

それに、俺がコンビニを出てきてからまだそれほど時間は経っていない。

夢綺渚が我慢の限界を迎えるまで、まだ猶予があるのである。


探索を使って夢綺渚の状態を確かめた俺は、新たな目標物を見つめる。

裏門の近くに停まっている5トントラックだ。

このトラックを発見した時から、絶対に使おうと心に決めていた。


SUVの破壊力を考えれば、5トントラックの破壊力はどれほどのものだろうか?

内心期待が膨らんだ。


先ほどモンスターを一掃した地下駐車場とは違い、ホテルの地上にはまだモンスターがうじゃうじゃいる。

これまでモンスターたちは俺を獲物と認識し、反射的に襲いかかってきていた。

誘き出すには好都合なのである。

夢綺渚が飛び出してきても大丈夫なように、裏門周辺のモンスターたちをまとめて片付けるつもりだ。


俺はモンスターたちを誘引するために、トラックの方に走りながら手斧を振り回す。

その度にモンスターは腹が裂け、血を噴きながら死んでいった。


俺は素早い動きでモンスターたちを薙ぎ倒し、最後にトラックの後ろにいるモンスターを仕留める。

そして、素早く運転席に乗り込んだ。

トラックドライバーの仕事をしたことがあり、トラックの運転には慣れている。


作業の途中で襲われたのか、車のキーは刺さったままだった。

ドライバーが無事だったなら、そもそもトラックがここに停まっていることもない。

キーがない場合のことも考えていたが、ひとまずこれで準備は整った。


一般人が5トントラックでモンスターを轢いても、やつらは死なない。

トラックでモンスターを殺すのは、覚醒者にしかできないことなのだ。


俺は運転席に座るや否や手斧をシートの下に置き、エンジンをかける。


[5トントラックを装備しました]

[5トントラック レベル3]


「おっと」


ラッキーなことに、最初からレベル3になっている。

E級にレベルアップしたからだろうか?


[レベル1 時速80キロ以上で攻撃力+1,200]

[レベル2 時速50キロ以上で攻撃力+1,200]

[レベル3 時速30キロ以上で攻撃力+1,200]

[レベル4 ???]

[レベル5 ???]

[レベル5が最大レベルとなります]


今はレベル3であり、つまりこのトラックは時速30キロ以上で走れば武器となるのである。

新しい武器の攻撃力に満足した俺は、探索を発動する。

5トントラックは地下駐車場には入れないため、地上にいるモンスターを片付ける用途で使うつもりだ。


[探索を使用しますか?]


俺は探索を使って周りにいるモンスターを確認した。

ほとんどのモンスターが正面入口に繋がる直線路に集まっている。

探索範囲が正面入口まで届かないものの、この先にモンスターが最も集まっているということは容易に想像できる。


逃げていた人たちはホテルから出ようと真っ先に正面入口に向かったはずで、多くの人たちがそこでモンスターに襲われただろう。

また、モンスターがこの世界に現れてからまだ1日しか経っておらず、次の命令を待ちながら人間を襲った場所で待機しているやつも多いはずだ。


俺はそこにいるモンスターたちを一掃するべく、まずはトラックをバックさせる。

そのまま少し距離をつけた俺は、前方に集まっているやつらに向かって一気にアクセルを踏み込んだ。


どっしりとしたトラックが徐々に加速していく。

ただトラックの特性からして、猛スピードで飛ばすことはできないはずだ。

とはいえ、時速30キロが出せればそれで十分である。


まだ時速10キロしか出しておらず、寄ってきたモンスターに車のガラスを割られてしまった。

俺は片手でハンドルを握りながら、そいつの顔面に拳を叩き込む。

そして、攻撃を受けたF級モンスターはそのまま吹っ飛ばされた。


やがて時速30キロまで加速し、攻撃力が出始めると、F級モンスターたちはそれ以上トラックに襲いかかることができず、次々と跳ね飛ばされていく。


ドンッ——!ドンッ——!


攻撃力が1,200を上回る5トントラックの突進に、F級モンスターたちは全く抵抗ができない。

モンスターたちは体ごと潰され、トラックの前面はやつらの血と臓物まみれになった。

ガラスにも血が飛び散り、ベトベトしている。


ドカーン──!ドカーン──!ドカーン───!


とはいえ、ここでブレーキをかけるわけにはいかない。

俺はアクセルを踏む足にさらに力を込めた。

スピードがだんだんと上がり、気がつくと時速40キロを超えていた。


[HPが5低下しました]


ドンッ──!


モンスターを轢く度に衝撃で車体が揺れ、HPが削られていく。

一般人ならすでに大怪我を負っていたに違いない。


ドガッ──!ドガッ──!ドガッ──!


幸いなことに、運転席の俺に気づいたモンスターたちはこちらに勝手に寄ってきてくれた。

そのため、やつらを引き寄せる必要もなく、やつらは勝手に轢かれて死んでいった。

このトラックは止まらない限り、車ではなく、攻撃力1,200を上回る強力な武器なのだ。


ガガガガッ——!


群れになって走ってきたモンスターたちを撥ねる度に、鈍い音が鳴り響く。

そしてその度に音は大きくなり、それにつれて運転席に伝わる振動と衝撃も増していった。


トラックに向かってきた大量のモンスターたちは、次々と跳ね飛ばされていく。

その数は想像以上だった。


あそこで13匹。

ここで5匹。

正面衝突したのが10匹。

跳ね飛ばされたのが18匹。

巻き込まれたのが22匹。


こんな状況が繰り返されている。

やつらはF級で、E級の俺が得られる経験値は少ないものの、それでも尋常ではない数だ。

ガガガガッ──!ブォーン──!ドガッ──!ドンッ──!

やつらに突っ込む度にHPも削られているが、まだまだ十分耐えられる。


大量のモンスターを殺し、当然のようにすぐさまシステムウインドウが現れた。


[E級レベル3になりました]

[E級レベル4になりました]


ドンッ──!ドンッ──!ドンッ──!


[5トントラックがレベル4になりました]


トラックの武器レベルも上がり、モンスターたちはトラックにかするだけで潰されていく。


ブウウウンッ——!




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