第4話

連携を組んでいれば、攻撃時に連携効果が発生する。

言い換えれば、攻撃力が上がるのである。

そして片方がモンスターを倒せば、経験値が共有される。

また片方が死ぬと、相手のアイテムとスキルが引き継がれる。


アイテムとスキルが一方的に引き継がれるため、悪用されることも多く、最後の効果を除けば、連携はとても使えるスキルと言えるだろう。

実際、連携を利用して仲間を裏切る行為が覚醒者の間で蔓延(まんえん)しているのである。

この世界では常に命の危険にさらされる。

そのため、最後に信じられるのは誰なのか、という話題を投げかけるスキルでもある。

本当に信頼でき、心の底から信用できる人とのみ使うべきスキルなのだ。


夢綺渚と俺の関係に関しては、言うまでもない。

連携を組んでいれば、俺がレベルアップをする度に夢綺渚も成長できるのだ。

そのため、夢綺渚が覚醒者になったことは俺にとって相当なメリットと言えよう。


身の安全という意味では、一般人と覚醒者の間には途轍(とてつ)もない隔たりがある。

そんな平和とは程遠いこの世界で、覚醒者の力とはまた別の力があった方が生存に有利となる。

こんな世界が10年も20年も続くなら、なおさらである。

ならば、この訳の分からない恩恵は確かなメリットと言える。

今はこういったスキルを最大限に利用し、生き残りを図らなければならない。

覚醒者として戦っていれば、無駄に早死にしかねない。

しかしそんな心配は無用だ。

どちらにしても、この世界では覚醒者よりも一般人の方が早死にするものだ。


俺自身のレベルを最大に上げ、夢綺渚に強力な防御スキルを身につけさせる。

それが新たな目標である。


「夢綺渚、その変なメッセージの使い方を今から勉強しないといけないんだ。この変な世界で生きていくために必要な力だからね」

「力?じゃあ、私もモンスターと戦うの?」


意外とすんなり状況を受け入れた夢綺渚は、むしろ目を輝かせる。

しかし子供の場合、そういった意気込みがかえって危険になりかねない。


「戦うのはまだ先かな?もっと大きくなってからじゃないとね!」


俺は夢綺渚の頭を撫でながら再び手を繋いだ。


「あとでゆっくり説明するから、とりあえずコンビニに入ろう」


回帰前と変わった状況に戸惑ったものの、いつまでもこうしているわけにはいかない。

まずは食料を確保すべきである。

コンビニの中はめちゃくちゃになっていた。

店員が必死に抵抗しながら商品棚を扉の方に動かしたため、床には商品が散らばっていた。


「夢綺渚、バッグにお菓子を入るだけ詰め込むんだ」

「何でもいいの?」

「ああ」

「ヒヒッ、パパ!なんだか泥棒になった気分だね。勝手に持っていけるなんて」


夢綺渚は難しいシステムウィンドウより目の前のお菓子の方が気に入ったのか、満面の笑みを浮かべてピョンピョンと飛び跳ねる。


いくら状況が状況とはいえ、泥棒になった気分だなんて。

聞き捨てならない言葉だ。

ここは状況を説明しておかないといけないだろう。


「夢綺渚、これはだな……」

「分かってるよ、パパ。今、非常事態なんでしょ?」


まあ、分かっているならいい。


すでに昨晩のうちに東京はほぼ焦土と化している。

大型ゲートが開かれた大都市では、全域にかけてモンスターが同時多発的に出没したのだ。

人口が密集している地域はどこも同じような状況だった。

当然、居住区にもモンスターが現れた。

東京、大阪、福岡、横浜、名古屋などの大都市は1日のうちに機能不全に陥り、人々はモンスターの餌食となってしまった。

一方で、それ以外の地域ではモンスターの出没数が少なかった。

しかし、俺たちが今いる場所は東京だ。

当然コンビニにもどこにも人がいない。

一夜のうちにすべてが変わってしまったのである。


そんなことを考えていると、複雑な気持ちになった。

俺はコンビニの床に座り込む。

すると、小さなクロスバッグにいくつかのお菓子を詰めてきた夢綺渚が俺の横に座った。

こんな子供がこんな訳の分からない光景を目撃したのだから、混乱して当然だろう。

隣に俺がいるからだろうか、それでも明るい顔をしている。

ありがたいことだ。


気分転換をさせようと思った俺は、夢綺渚に感謝の気持ちを込めて言う。


「夢綺渚、腕貸して」

「うん?」


夢綺渚は何の疑いもなく腕を差し出す。

俺はそんな夢綺渚の腕に噛みついた。


「腕を食べちゃうぞ!」

「キャー!パパ、怪物になったの?私を食べるだなんて!」

「そうだ、俺はモンスターだぞ!」

「ふえーん……じゃあ、私も!」

「え?」


俺の突然の行動に、夢綺渚は意外にももう片方の腕も差し出してきた。

注意を促すためにやったのだが、むしろ楽しんでいる様子だ


「こっちも食べて。パパが怪物になるなら、私も怪物になる」

「おいおい、もしもパパが怪物に噛まれてモンスターになったら、逃げなきゃダメだぞ。夢綺渚まで一緒にモンスターになったらどうするんだよ?」

「嫌だ!パパと一緒がいいもん」


夢綺渚がそう言いながら抱きついてくる。

そして、口を大きく開けた。


「私も噛んじゃおう!」


夢綺渚は歯を剥き出しにして、俺の首を優しく噛んだ。

首を噛むなんて吸血鬼なのか?


「ヒヒッ、私が噛んだから、パパは人間に戻ったはず」

「アハハ、そうなのか?」


夢綺渚は再び俺に向かって歯を剥き出しにする。

明るい子だ。

そんな夢綺渚に悲しい顔は似合わない。

いつまでも今の姿でいて欲しい。

そうできなかった5年間とは違う人生を送って欲しい。

だんだんと暗い顔になっていったあの時とは違う人生であるべきなのだ。


俺はそっと唇を噛みしめる。


「そういえば、お菓子は詰め終わったのかい?」

「うん、ほら」


夢綺渚がクロスバッグを開けると、中には彼女が好きなお菓子と俺が家でよく食べるお菓子がたくさん入っていた。


「もしかして、それはパパの分?」


俺が見慣れたお菓子を指差すと、夢綺渚が勢いよく頷いた。


「うん、私だけ食べたらパパが可哀想(かわいそう)でしょ?」

「そうかい?パパもリュックを持っているけど?」

「それには違うものを入れるの!」

「そうだな、夢綺渚って優しいね!夢綺渚の言う通り、パパのリュックには水と必要な食料を入れるよ」


水と食料は欠かせない。

他はともかく、水だけは絶対に確保しなければならない。

最悪の場合、何も食べなくてもある程度は耐えられる。

しかし、水は飲まないと命に関わるのである。

そのため、水は他の何より重要と言える。

この先覚醒者が統治者として降臨するこの世界では、強い覚醒者たちがあらゆる水源を占拠し、水は力の象徴となるのである。

地図より先に水を探すことにしたのも、そういった理由からである。


幸い500mlのミネラルウォーターがかなり残っていた。

リュックに入れるとしたら、このくらいの大きさがちょうどいい。

とりあえず、500mlのミネラルウォーターを10本持っていくことにした。

1本は出しておいて、9本をリュックに詰め込もうとした俺は、思わず唇を噛みしめた。

9本も入れてしまったら、リュックの空きが足りなくなる。

となると、5本はリュックの外側につけた方がいいだろう。

俺はすぐにガムテープを手に取り、リュックにペットボトルを固定してぐるぐる巻きにし始める。

そうやってリュックの空きを確保することができた。

どうせ消費しないといけないし、1本ずつ剥して飲めばいいだろう。

自衛隊の頃にやっていた完全軍装に比べれば、まだ軽い方だ。

色んな物を持ったままでは走ったり戦ったりできないし、この程度が限界だろう。


リュックの空きを確保した俺は、先に出しておいたミネラルウォーターを取って蓋を開けた。


ゴクゴク——


水をガブガブと流し込むと、喉を伝って全身に行き渡っていく。

朝に水分補給をしたきり、かなり長時間水を飲んでいなかった。

だからか、ぬるくてもとても清涼感を感じた。


世界で最も美味しい水は一日中体力を使った後、喉がカラカラの状態で飲む水だろう。

気持ちよく喉を潤した俺は、夢綺渚にミネラルウォーターを渡す。


「夢綺渚、これ飲んで。水分補給はこまめにしないと」

「うん!」


夢綺渚は頷きながらミネラルウォーターを受け取る。

その後、俺は再びコンビニの中を調べ始めた。

水の次は、食料を探さなければならない。

持っていくべきものは大方決まっている。

高カロリーのエナジーバー、またはチョコバーだ。

これらは手軽に食べることができ、短時間でエネルギーを補給できる。

災害時もそうだが、人類が滅亡の危機に瀕しているこの世界でも大いに重宝されるはずだ。


俺は商品棚を見回しながら夢綺渚に言う。


「夢綺渚、床に落ちているものの中にチョコバーとかエナジーバーとかあったら、全部取っておいて」


それからしばらく店内を見て回っていた俺は、奥の商品棚でチョコバーの箱を見つけた。

店員が持っていこうと隠しておいたもののようだ。

その時、夢綺渚が声を上げる。


「パパ、これ!エナジーバー!」


夢綺渚はナッツとチョコレート、穀物で作られたエナジーバーを両手に持っていた。

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