第23話~蒼魔族の戦士~
坑道の中で偶然に出会った蒼魔族の戦士は、アンジェを見ると腰の短刀を抜いた。
「そ、蒼魔族!」
「くそっ、こんな時に」
「ど、どうします?」
「ここまできて、引き返すわけにはいかん」
「で、でも……」
蒼魔族の戦士は、アンジェの姿を見ると目を細め、ゆっくりと向かってきた。
「人間の女が、なぜここにいる?」
「い、いえ私は……その、怪しいものじゃ……」
「その法衣、教会の者か?」
「あ、あは、よくご存じで……」
蒼魔族は先の大戦で、メリダ法国の軍勢と刃を交えたことがある。その中でも彼らを悩ませたのは、法衣を着た神官達の使う魔法だった。
「仕方ない。ひとまず撤退だ。闇を落とせ!」
「は、はい」
アンジェが《常闇(ダークネス)》の魔法を唱えようとした時だった。蒼魔族の戦士は一気に間合いを詰めると、アンジェの手を捻じり上げた。
「いたぁぁい!」
その痛みに、魔法の発動が止まる。戦士はアンジェの背後に回ると、口を右手で塞いだ。いくらアンジェが魔法が使えると言っても、一対一で魔族の戦士に敵うはずもなかった。
「くそっ、ここでこの女を殺されたら、また一からやり直しだ。どうする、考えろ」
魔王は焦った。しかし、トカゲ姿の魔王が攻撃魔法を使用したところで、蒼魔族の戦士に対して効果があるとは思えなかった。
「すぐには殺さん。お前には聞きたい事がある」
そう言いながら、戦士は短刀をアンジェの首筋に当てた。
「こいつをどうにかして無力化するしかない。やってみるか」
アンジェの法衣の胸元がもぞもぞと動くと、トカゲの頭がピョコッと現れた。
「トカゲ、だと?」
突然の事に驚いた戦士とトカゲの目が会う。一瞬、トカゲの目が光った。戦士は眩暈を覚え、アンジェを離した。その隙に逃げようとしたアンジェだが、下腹部に熱を感じた。魔王が《萌芽》に力を入れたのだ。
「ぁあぅん……」
アンジェは下腹部を手で抑え、悶えながらしゃがみ込んだ。
(こ、こんな状況で何をするんですか!)
「あの魔族の戦士に色目を使うんだ!」
「い、色目って言われても」
体勢を立て直した戦士が再びアンジェに短刀を向けた。
「逃げるな!」
「お願い、助けて」
しゃがみ込んだアンジェが頬を染めながら潤んだ瞳で上目使いで戦士を見つめた。その表情に戦士は鼓動が早くなるのを感じた。
「な、何だ、この胸の高鳴りは」
それは、蒼魔族の若い戦士が感じる初めての感情だった。短刀を落とすと、両手で顔を覆った。
しゃがんだアンジェの目の前で、戦士の股間が膨れ上がる。戦士は我慢できずに、自ら腰の防具を外した。
魔王は蒼魔族の戦士に《魅了(チャーム)》の魔法を使った後、アンジェの《萌芽》にありったけの魔力を注いだのだ。
坑道にいるのは、蒼魔族の戦士とメリダの神官ではなく、ただの男と女になっていた。
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