第3話~第一の眷属、アンジェ~

「ふぅ、さすがに飲み過ぎたかな」


 神官カリアが教会に戻ってきたのは深夜だった。村の宴はまだ続いており、朝まで終わりそうになかった。


「魔族の手に落ちてはいたが、思ったより荒廃はしていなかったし。村の復興は早そうだ。明日にでも、中央教会へ知らせを送らねば」


 ピエタ村はリスタルト王国の北の外れにある。魔王軍に奪われた際、難民となった村人達は南西へ逃げメリダ法国の庇護を受けた。それは村人としては仕方のない判断であった。

 しかし、魔族を北の大地へと押し返した後、この出来事は微妙な政治問題をはらむこととなった。バレンシア大陸の南の大地は南北に伸びる四つの国に別れている。東から共和国アーバン、リスタルト王国、メリダ法国、魔法国家サニバールである。メリダ法国は中央教会と始まりの聖地ザルドを有しており、かつては南の大地全てを領土にしていた。そのメリダ法国から20年前に独立したのが、騎士王と呼ばれるリスタルトが治めるリスタルト王国である。当然ながら、二国間の仲は良好とは言えなかった。

 メリダ法国はピエタ村の住人達の帰還にあわせ、カリアを中心とした復興支援の人員を派遣した。そこには、この地域をリスタルト王国から切り取ろうとする思惑があった。


 カリアが自室に戻り、休もうとした時、聖堂のほうからアンジェの声が聞こえた。それは、叫び声のようでもあった。


「あの声は? 何かあったのか?」


 胸騒ぎがした神父は、声が聞こえた礼拝堂へ向かった。扉を開けると、そこには神像の下で倒れ込んでいるアンジェの姿があった。


「アンジェ!」


 カリアはアンジェの側に駆け寄り、その身体を抱き起した。法衣は膝上までめくりあがり胸元がはだけていた。息は荒く顔は赤く上気している。


「いったい、何が起きたのだ?」


 腕の中でアンジェの瞼が開いた。その瞳が真っすぐに彼を見つめる。その視線に射ぬかれ、カリアは自身の鼓動が早まるのを感じた。


「カリア、様」

「大丈夫か、アン―」


 名前を呼びきる前に、アンジェが抱きついてきた。その唇がカリアの口を塞ぐ。突然の出来事に、カリアは何が起きているのか理解できなかった。ぬるっとした暖かい感触が口内に忍び込む。アンジェが舌を絡ませてきたのだ。それは破壊的な衝撃だった。酒に酔っていたせいもあり、カリアは理性を保てなかった。気が付けば、自らも舌を動かしアンジェの唇を吸っていた。

 無理はなかった。メリダ法国の神官は教義により禁欲を強いられ、男は性を放つことを禁じられる。欲望を抑えこむことによって、魔力を高めることができると教えられるのだ。


 二人は息をするのも忘れ、互いに貪るように唇を重ね舌を絡ませた。卑猥な音が教会内に響き渡る。息苦しくなって唇を離すと、唾液が糸を引いた。恍惚とした表情を浮かべたカリアだったが、その視界にバレンシア神の象が入ると、ハッとした表情を浮かべた。我に返ったカリアがアンジェの身体を引き離そうとする。それを引き留めるように、アンジェの手がカリアの股間に伸びた。


「アンジェ、な、何を……」


 法衣の上から股間をまさぐられる。身体に満ちる魔力が、その一部分に集中していくのがわかる。


「カリア様のここ、硬くなってる」


 うっとりした目でアンジェが舌なめずりする。その表情は、まるで淫魔のようであった。


「正気になるんだ。こんな事をしては……」


 静止の声も届いていないのか、カリアの法衣に手をもぐらせ、ズボンを下げると直に股間に触れてきた。アンジェの冷えた掌が、熱く脈打つカリアの神棒を包む。


「はぅ!」


 その瞬間、カリアは情けない声を上げた。アンジェの手が絶妙な動きで棒を擦る。


「いけない! それ以上動かすと!」


 魔力が今にも股間から放出されようとする寸前、アンジェは手の動きを止めた。


「まだ、ダメです」


 そう言って微笑みながら、アンジェはカリアのズボンを完全に脱がした。カリアの神棒がアンジェの目の前に現れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る