ep8.ルーラー捜索 限界突破

■後神暦 1325年 / 春の月 / 星の日 pm 04:00


――ツーク村周辺の森


「ん~、やっぱり、簡単には見つからないねぇ……」


 アドリアさんからの依頼、それは野盗ルーラーの野営地を探すことだった。

 そこで空を飛べるボクに白羽の矢が立ったワケだ。


 とは言え、眼下に広がるのは広大な森に草原……

 ジェスを入れて数人しかいないらしいルーラーを探すのは至難だ。



「セイル~、もう少し下がって探したらぁ?」


 飛び続けて数時間、変り映えのしない景色に飽きてきたリリスが言う。


「そうだけど、相手が弓持ってたら危ないじゃん」


 正確にはボクは空を飛んでいない。

 風に乗って滑空してるだけなので、空中で機敏な動きはできない。

 相手の飛び道具には警戒するべきだ。



「だいじょーぶだって! ビビりすぎ~」


「はぁ? ビビッてないけどね。良いよ、そこまで言うなら下がろう」


 リリスの挑発に乗って一気に高度を下げる。

 高さは森の樹のスレスレ、確かにこれなら動くモノは目に付きやすい。



「あーしも探すの手伝ったげる」


「ちょ……身体ごと出たら危な……―」


 言いかけたところで、ボクとリリスの間を一本の矢がかすめていった。

 飛んできた先を見ると、弓を構えたガラの悪い男が5人、きっとルーラーだ。



「ヤバっ!! マジでいた! リリス逃げるよ!!」


 態勢を変えて飛び上がろうとすると、次の矢が飛んでくる。

 乱暴だけど、リリスを引っ掴んで矢を躱し、靴を下に向けた。



 ――!!!!!!!!!



 ツイてない……三本目に放たれた矢はボクの靴底に当たった。

 足までは貫通しなかったけれど、靴の風を噴射する仕掛けを壊された……



 ヤバい、堕ちる……!!



 リリスを胸元に抱え、目一杯に自分を軽くして地面に落ちた。

 ゴロゴロと転がり、立ち上がる、羽の服もボロボロだ。



「くっそ……アイツら、たぶん先にボクたちのこと気づいてたんだ……」


「あの……セイル、ごめ……あーし……」


「そんなのいい! 逃げて!!」


 おたおたするリリスを一喝する。

 今、地の利がある相手にできることは一つだけ……



「ボクが足止めするっ!!」


「ダメだって! 一緒に逃げようよ!!」


「いいから行けって!!!!」


 リリスは肩をビクりとさせ、言う通りに一人で逃げてくれた。

 二人で逃げたとしても知らない森で囲まれたら終わりだ。

 だったらリリスだけでも絶対に逃がす……!



「オレは絶対に退かないからな……!」


 間をおかずにルーラーは追いついてきた。

 初めに三人、その後ろに二人……よし、全員こっちにきてる。



「昨日、村にいたガキだな?」


 ルーラーの一人がそう言った。

 魔狼の襲撃をどこかに隠れて見てたのか。



「そうだよ、居場所が割れたお前らはもう終わりだな?」


 強がって言ってみせる。

 怖いけど、気圧されるワケにはいかない。


 ボクが言い返してやったルーラーは気に触ったのか『やっちまえ』、と、いかにも小悪党が言いそうなセリフを吐いて一斉に襲いかかってくる。


 よし、今だ……



「重くなれぇぇぇ!!」


 全員で飛び込んできてくれるのは好都合。

 全力全開でボクの周囲のモノ全てを重くしてやる。



「……ぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁ!!!!」


 メキメキと木々の枝が折れる音が聞こえる。

 ルーラーたちもその場に這いつくばって身動きがとれていない。

 でも、こんなに広範囲を重くしたことなんてない。

 身体中の力が一気に抜けていくのを感じる。



 ――まだ、まだだ、一秒でも長く、一歩でも遠く、リリスが逃げる時間を稼ぐんだ。



 食いしばり過ぎて奥歯が痛い、鼻血も出てるのだろう、唇が鉄臭い。

 頭からつま先まで、力をかき集めろ、足りないなら魂すら燃やせ……!!


「ま……だ……ま……だぁぁぁあぁぁ…………

……――!?」


 心は折れてなかった、でも身体の限界が先に来てしまった。

 直前に数時間も飛び続けたボクはもう空っぽみたいだ。


 フッと魔法が切れる、そして。


 ヤバ……意識が……飛ぶ……――



 頑張ったけれど稼げた時間は数分……

 後はコイツらがリリスを見失ってくれるのを祈るしかない。


 ボクはどうなるのかな?

 殺されちゃうのかな?


 ……もっとリリスと色んなところへ配達の旅をしたかったな。


 そんなことを考えていた。

 諦めたくない、諦めたくないけれど、身体が動かない。


 最後に倒れ込むボクを支えるように突風が吹いた気がした。

 霞む視界の端を横切った真っ白い光を見送りながら意識は闇に落ちていった。



 今までボクの顔を撫でてくれていた一陣の風も、もう感じない。

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