ep7.魔狼討伐戦 重力操作の真価

■後神暦 1325年 / 春の月 / 海の日 pm 00:25


――ツーク村 入口前


 戻ってきた……風もボクたちに味方してくれているのか強く吹いている。


 空から村の入口を見下ろす。

 魔狼の数は減ってるけれど、アドリアさんたちも苦戦しているみたいだ。



「もう逃げないぞ……!」


 魔狼の群れの後ろへ周り、ゆっくりと曲がりながら狙いを定める。



「……喰らえ! ”メテオ・ジャベリン”!!」


 真下に投げた石の重さを変えて魔狼を貫く、その威力は投擲槍ジャベリンの如く、だ。



「よしっ!! ボクだって戦える!!」


「なぁにその”めてお・じゃべりん”って?」


「今考えた魔法の名前。

姐さんも戦うときに魔法の名前を叫んでたって聞いたからさ」


「あ~、『なんとか技能スキル!!』ってやつだぁね」


「そうそう、強くなれる気がするじゃん」


 マネで良い、今は少しでも姐さん……いや、リム=パステルの英雄、錆鉄さびてつ猫姫ねこひめみたいに振る舞うんだ、それがボクの勇気になる。


 そう自らを鼓舞していると、眼下で変化が起きたようだ。



「……セイル、なんか魔狼がちょろちょろし出したぁよ?」


 リリスが言うように相手も空からの投石に警戒を始めた。

 前後左右に跳ね回られると狙いが定められない。

 かと言って、アドリアさんたちの近くの魔狼を狙うのは、味方に当ててしまいそうで躊躇ってしまう。



「くっそ……狙えない……」


「いっぱい投げたら? 石無くなったらまた拾いに戻ればいいじゃん」


「そっか! よーし、覚悟しろ……”メテオ・レイン”!!」


 抱えた石を鷲づかみにして、放り投げた。

 狙いなんて関係ない、数で勝負だ。



「重くなれぇぇー!!」


 重くする対象が増えた分、威力は落ちたけれど、当たりさえすれば足を止められる。

 ばら撒いては、狙う、これを2回繰り返して手持ちの石がなくなるころにはボクは4頭の魔狼を仕留めていた。



「ねぇねぇ、アドも勝ったみたいだぁよ」


「本当だ……やった、やったよ、リリス! ボクたち魔狼に勝ったよ!」


 リリスの小さな手とハイタッチして、アドリアさんたちの元へ戻る。

 魔狼との戦いで過去に後悔があった彼女も心なしか晴れやかな表情だ。



「おい、セイル! すげぇじゃねーか!!」


 アドリアさんが着地したボクに駆け寄って、頭をわしわし撫でながら褒めてくれた。

 嬉しいような、くすぐったいような、上手く言葉にできなけれど、顔は自然と緩んでいたと思う。



――その夜……


 ボクたちはアドリアさんの家に夕食も招かれた。

 夜も泊っても良いらしい。


「しかし、よくやってくれた。

まさか1頭も逃がさずに仕留められるとは思わなかったぞ」


 そう言って褒めてくれたのはアドリアさんのお父さん、つまり村長さんだ。



「当然だぁよ! なんたって『風のセイル』だもん! ねっ!」


 何その二つ名……本人のボクは聞いたことないんだけど?

 興奮するのは分かるけど、『ね!』じゃないんだよなぁ……


 リリスは故郷での『魔狼の戦い』のティスさんと自分を重ねてか随分と機嫌が良い。



「この辺って魔狼がよく出るんですか?」


 なんとなく恥ずかしくて話題を変える。


「いや……最近になってからだな、それに原因は判ってんだ」


 アドリアさんが答える。

 彼は苦々しい表情を浮かべ、村周辺で起こっていることを教えてくれた。


 魔狼は自然発生で村に襲ってきているワケではなく、手配書が回っている野盗集団ルーラーの仕業であること。

 何故、そう言い切れるかと言うと、数か月前に移住してきた、ある村民がルーラーを手引きしているからだそうだ。



「ジェズっつってな、色々問題起こしては『俺は悪くない』って喚くもんだから、あっと言う間に村で孤立したんだ」


「でもなんでソイツが野盗と関係してるって分かるんですか?」


「村を出てった後に自分からルーラー引き連れて宣言しにきたからだよ。

バカだよな、自分を認めない村が悪いって言うだけ言って逃げってったからな」


 なんだそれ……

 付き合って出張ってくる野盗もだけど、だいぶヤバいな。



「ルーラーん中に”魔獣の敵意”をコントロールできる魔法を使う奴がいるらしくて、今まで魔狼をけしかけられてたってワケだ」


「じゃあ、魔狼も全滅したし、今なら攻め時だぁね~」


「俺もそう思う。

でな、セイルに頼み……いや、依頼したいことがあんだ」


 アドリアさんは、いっそう真剣な面持ちで真っ直ぐにボクを視る。

 乗りかかった舟だ、出来る事ならやってみよう。

 それ以前にリリスが乗り気でみたいだから断る選択肢はないけどね……



 開け放った窓からボクの顔を一陣の風が心配そうに撫でていった。

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