ep5.旅の軌跡 ツーク村
■後神暦 1325年 / 春の月 / 海の日 am 06:00
――各地へ続く街道 分帰路
早朝、ボクはアルコヴァン各地へ繋がる街道の分かれ道まで来ていた。
「セイル~……まだ眠いんだけどぉ」
「リリスはカバンの中で寝れるでしょ?」
「揺れるんだぁよ。セイルは地震の中で寝れんのぉ?」
「はいはい、でも姐さんたちが寄った村に行きたいって言ったのはリリスだかんね」
「むぅ……」
リリスは唇を尖らせ、そっぽを向いてバックパックに潜っていった。
一見するとワガママだけど、最近、ボクは彼女との付き合い方が分かってきたんだ。
だって、この後は必ず……
「……ごめんなさい」
背中から声が聞こえる。
ほらね、リリスは表面上は意地悪に感じるかもしれないけれど、根は素直なんだ。
だから悪いと思ったことは、遅れてもこうやって謝ってくれる。
「いいよ、なるべく揺らさないように飛ぶから寝てな」
バックパックから『あ~い』と返事を受けて、そっと魔導具の靴を起動する。
目的地のツーク村まではもう少しだ。
…
……
………
…………
――ツーク村 入口
「わぁぁぁ!! セイル! ツーク村だぁよ!」
ぐっすり眠ったリリスはいつも以上に元気だ。
「まだ昼前か……思った以上に近くて良かったよ。村の外でご飯でも食べる?」
前に立ち寄った村で買った食料がまだ多少残っている。
ボクの場合、街から街、村から村へ、日を跨がずに移動できることが多い。
その為、食べ物がなくなる事態に陥ったことが今のところない。
「賛成だぁよ、朝ご飯抜いたからペコペコだったぁ~」
「じゃあ、適当に火起こしできるとこ探そっか」
そうして、村の入口に背を向けた直後、背後から声をかけられた。
「よう、旅人か?」
振り向くとそこにいたのは、黒髪に褐色の肌の青年。
種族は……犬……いや、狼人族……?
強面の青年にボクの警戒度は上がっていった。
「えぇまぁ、そんな感じっス」
ぶっきらぼうに返事をしたが、青年は気にせず、ボクたちをまじまじと見る。
「なぁ、お前ってミーツェの孤児院にいなかったか?」
ミーツェ、姐さんの愛称だ。
それによく見るとボクもこの人に見覚えがある。
姐さんの子供の双子が懐いてた人だ。
名前は……えーっと……
「あはは、警戒すんなって!」
「すみませんっス、そんなつもりじゃなかったんスけど、名前が……」
「あ~わるい、名乗ってなかったもんな、アドリアだ」
そうだ、姐さんが『アド』って呼んでた。
確か魔物の大群とも一緒に戦ってたはず……
この村の人だったんだ。
「セイルっス、よろしくお願いします! こっちはリリスっス」
「おぉ! 妖精族も連れてんのか!? へぇ、ティスより元気そうだな」
「ティスの友達なぁの!? セイル! この人とご飯にしよう!」
突然のリリスのお願いにも『家にこい』と笑って応えてくれるアドリアさん。
姐さんの双子も『兄ちゃん』と慕ってたのを思い出す。確かに兄貴っぽい。
家に招かれて驚いた。
彼は村長の息子で、以前に近隣の村との諍いでも姐さんやティスさんと一緒に戦ったそうだ。
リリスは彼の話に興味津々。
旅の途中から思っていたけれど、リリスは同族のティスさんのことがかなり好きだ。
アドリアさんの話に、まるで自分がそこにいるかのように聞き入っていた。
食事が終わる頃には、お互いを愛称で呼び合うほどに仲良くなっていて、ちょっとだけ妬ける。
「ミーツェも最近、村にきたんだぞ。なんでも隣国に用事なんだってよ」
「マジっスか!? うわぁ……帰ったら真っ先に報告したいって思ってたのに……」
なんてタイミングが悪い……
戻っても姐さんがいないかもしれないし、もっと早くツーク村に着いていれば会えたかもしれなかったってことだ。
「あーしは会いに行けないこともないけぇどね」
落ち込んで耳を下げるボクにリリスが自慢気に言う。
「ん? もしかしてリリスもアレ持ってんのか?」
「アドも!?」
二人の会話が分からない、アレってなんだ?
教えてと頼んでも、はぐらかされるし、もう疎外感にいじけてしまいそう……
「拗ねんなってー。
俺らの口からは言えないけど、次にミーツェに会ったときに聞いてみるといいぞ」
「分かりましたっス……」
――!!!!!!!!!!!
しょんもりとしていると、突然、村の警鐘が鳴り響く。
それを聞くや、アドリアさんは立ち上がり、壁にかけてあったマチェットと柄の太いナイフを持って玄関扉へと走り出す。
「お前らは家にいろ! 家ン中は安全なはずだ!!」
ワケも分からず、飛び出し様にそう言ったアドリアさんの背中を見送ることしか出来なかった。
家の扉が締められると、リリスが目の前に飛んできてボクに言う。
「セイル! 見に行こうよ!!」
「いや、でも『家にいろ』って言わたでしょ」
「きっと村のピンチなんだぁよ! 今こそ冒険じゃん!」
アドリアさんの話を聞いた直後だからか、リリスは興奮気味で退く気がなさそうだ。
ピンチ……かは分からないけれど、ボクにも役に立てることがあるかもしれない。
少なくとも飛んでいれば足手まといになることはないだろう。
「……よし、行こうか」
言うこと聞かなくてごめんなさい、でも……!
意気込むボクの顔を一陣の風が心配そうに撫でていった。
【アドリア イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093077619376403
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