第4話猫耳モード

「――おい斗南、お前ホント、大丈夫か?」




 一転して堀山先生が物凄く心配そうな表情になり、小柄な美優に合わせて腰をかがめ、その両肩を掴んだ。




「なにか悩み事があるのか? 優等生のお前だ、きっとなにか悩んでるんだろう? 先生に相談してみろ……いや、相談してくれ」




 先生が肩を揺さぶる度に、美優の猫耳も揺れた。


 美優は死ぬほどに真っ赤になり、潤んだ目を伏せてはいるが、無言だった。


 あわわ……と俺が内心大慌てに慌てている前で、堀山先生は尚も言った。




「そんな女子高生が単なる思いつきでハロウィンでもないのに猫耳つけて登校するわけがないだろう? 誰かに脅されてるのか? 今こうして恥をかいているお前を見て誰かが笑ってるというなら、そんな外道は先生がぶちのめしてやる。だから安心して、そいつの名前を言ってくれ、な?」




 それ俺です、と、この状況で言ったらどうなるだろう、と俺は少し考えた。


 今のあの表情である。堀山先生はきっと本気で俺をぶん殴るだろうし、周囲の生徒たちもサイテーだ鬼だ外道だ変態だと俺のことを罵るに違いない。


 そのことに気がついた俺は絶対に動揺するわけにはいかないと思い、死ぬ気で平静を保とうとしていると、美優が顔を上げて堀山先生の顔を見た。




「あ、あの、先生……」

「な――なんだ?」

「先生、あの、これ……本当に、私がしたいからそうしてるんです。あの、あの……決して誰かに脅されているとかでは……」




 その一言に、堀山先生の顔が青ざめた。


 これは誰かに脅されているとかではない、本格的に美優がおかしくなったのだと、堀山先生はそう考えたに違いなかった。


 でも、そこは優等生の美優のことである。美優は死ぬほどの羞恥に震えながら、口を開いた。




「これは本当に、趣味というか、その、したいからしていることなので……あの……お願いだから、先生、この猫耳について触れないでもらえますか……?」




 その時の美優の声は震えており、表情も今すぐ顔が破裂するのではないかと思うぐらい真っ赤っ赤だったが、決して正気を失った目と顔ではなかった。


 堀山先生も当然、そう考えたのだろう。クラス全員が唖然としている前で、堀山先生は美優の肩から手を離し、「おっ、おう……」とよくわからない声を発した。


 物凄く注目を集めている前で、美優は無言で自分の席まで歩き、そしてなにか意を決したように口を引き結んでから、席に着席した。




 クラス中が、水を打ったように静まり返った。


 誰も彼も、今しがた席に着席した美優を――というか、その頭の上でピコピコ震えている猫耳を凝視し、何かを言いたげに口を開け閉めしている。




「おっ――おいお前ら! いい加減にしないか! 見世物じゃないんだぞ!」




 見世物ではないならなんでこの人は猫耳なんかつけて登校したんですか? 


 クラス中の何人かがそう言いたげな目で美優と堀山先生に視線を往復させたが、かといってそれを口にできる勇気もなかったに違いない。


 なんだか不満そうな表情で口を閉じる他ないクラスメイトたちを見渡して、堀山先生は二度、空気を入れ替えるように手を叩いた。




「ほら、いつまでもポカンとしてるんじゃない! 一日の始まりのHRだろうが! 今から出席を取る! いつもより大きな声で返事をしてくれ、わかったな!?」

 



 堀山先生が余計なことを付け加えて宣言すると、ただでさえ小柄な美優は涙目になり、更に縮こまってしまった。


 美優が羞恥に震える度に、美優がつけた黒猫の猫耳がプルプルピコピコと震えるのが可笑しくてつい笑いそうになったが、ここで笑ったら俺の学生生活は終了だ。


 自分がしでかしてしまったことの罪の深さを思い知るような気持ちで、俺は丹田に力を込めて美優を見ないことに徹するしかなかった。




 その後、一日が終わるまで――美優はあの猫耳姿のまま、きっちりと授業を受け続けたのだった。






明日から17:00投稿に改めます。


完全にストレス発散目的の書き溜めナシ、

しかも原稿ナシのカクヨム直書きですので

いつぞや飽きて連載停止するかもわかりません。


「もう少し続けてくれ」と思っていただけた場合は、

たった一言


「続けて」


とコメントなりレビューなり★なりをください。

それ以外の文言は一切要りません。

「続けて」だけで結構です。


よろしくお願いいたします。

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