第2話食いついた

 その後、俺はゲラゲラと笑いながら、机にスマホを置いてトイレに行った。


 アカウント名が『大爆乳女子@98cmHカップ』――その時点でもう面白おかしい。




 あの文面を見た美優はどのようなリアクションをするだろう。


 なんだこの胡散臭いDMは? 明らかにからかい半分じゃないか。


 こんなDMが送られてくるということは、さてはまさか誰かに自分の裏垢を悟られたんじゃないだろうか。


 それがまさか、よりにもよって幼馴染の俺だったりしたら――。




 俺だったら一週間は寝込むな、などと考えながら俺は楽しく用を足した。


 流石に恥ずかしさのあまり自殺、なんてことは考えたくはないが、相手はあの美優だ。


 このDMの送り主が俺だと悟って怒り狂ったとしても、俺はもう育乳垢の存在を知っている――つまり、人質を取られたも同然なのだ。


 今後、何か喧嘩する度にこのことをネタに強請ることだって十分可能である。


 まぁ流石に可愛い妹分に対してそんな酷いことはするつもりはないけれど――考えるだけで、物凄く愉快な気持ちである。




 トイレから出て、きちんと手を洗い、自室に戻ってスマホを手に取った俺は――。


 次の瞬間、開きっぱなしのTwitterのDM欄を見て、眉間に皺を寄せた。




『大爆乳女子@98cmHカップさんはじめまして!


嬉しいDMありがとうございます!


大爆乳女子さんはHカップもあるんですね!? 凄く羨ましいです!


是非その育乳の秘訣を教えて下さい! 何でもします!!!』




「いやいやいやいや……」




 ない、これはない。流石にない。


 俺は少し驚いてしまった後――うーむ、と唸った。




 コレは……どう見ても猛烈に食いついてきている、な。


 こんな明らかにからかい目的の文面を真に受ける? 


 アイツ、そこまでバカだったのだろうか。


 いや――単にアイツがバカということではなかろう。


 どちらかと言えば、必死すぎて藁にも縋る思い、ということなのだろう。




 しばらく考えて……俺はなんだか物凄く悪いことをしてしまった気分になり、しゅんと肩を落として、先程までの悪戯心を深く反省する心持ちになった。




 そうだ、これが逆の立場だったらどうだろう。


 俺はいつもからかい半分で美優の貧乳を弄くり倒しているけれど、本人はこんな裏垢を運営するほど、そのコンプレックスを気にしているらしいのだ。


 なにせ、今日は怒り狂って花瓶の水までぶっかけてきたのである。それにこの裏垢にツイートされている通り、毎日爆乳女子を目指して地道な努力を重ねてもいるらしいのだ。


 相手が俺だから本人は気にしないふりをしているけれど、実はああ見えて、美優は俺の貧乳イジリで結構ダメージを受けているのかもしれない。


 もしかしたら貧乳をネタにされる度に深く傷つき、俺の知らないところで枕を涙で濡らしているのかもしれない。


 貧乳を俺にイジられる度に高熱を出して寝込み、ヒッグヒッグウェーッと嗚咽を漏らしながら飲んだくれ、自暴自棄になって床に転がってホコリまみれになり――世捨て人のようになっているのかもしれなかった。



「すまん美優……これは流石にいけないことだったな」



 俺はDMの文面に向かってそう呟き、今も目をキラキラさせて俺の返信を待っているのだろう幼馴染の顔を思い浮かべて謝罪した。


 そう、これはいけないことだ。裏垢とは本来物凄く私的なもので、それをネタにして人をイジることなど、イジメ同然の所業に違いない。


 ましてやこんな小っ恥ずかしい内容の裏垢である。これを俺に知られたという事実が発覚しただけで乳吸にゅうすい――否、入水にゅうすい自殺モノだろう。


 ましてや妹同然の存在が物凄く気にしていることをからかってこんなことをするなどとは――いくら幼馴染と言えど、言語道断の行いに違いなかった。




 俺は深く反省する気分でため息を吐いた後、己がしでかしてしまった事態を収拾する方法を考えた。




 今頃、美優は俺からの返信を今か今かと待っていることだろう。


 ごめん今のアレ俺なんだ、と電話で謝罪するか?


 いや――そんなことをしたら、その一言を聞いた瞬間にアイツは二階にある窓から投身自殺を遂げてしまう。


 このままDMを無視して事が有耶無耶になるのを待つか?

 

 これが理想的に思われたが、この食いつき方だと、美優は今夜は夜通し起きて返信を待ち続けるだろうし、それも可哀想だ。




 俺は色々と考えて――結局、これがいたずら目的の第三者による、心無いDMであることに美優が気づくことに賭けることにした。


 そう、きっとそれが一番いい。


 なんだ、結局いたずらなんだ――そう思って落胆はするだろうが、この垢の存在を俺が知ってしまった以上、それが本人にとって一番ダメージの少ない幕引きになるだろう。



 少し考えて――俺は全力でバカバカしい内容の文面作成に取り掛かった。




『【ゆうみ@成長中】さん、返信ありがとうございます。


実は育乳には……大量の女性ホルモンの分泌が不可欠なんです!


ではどうやって女性ホルモンを大量に分泌させるか。


それは物凄く恥ずかしい思いをすること、ドキドキすることなんです!


【ゆうみ@成長中】さんは学生さんということなので、


明日はネコミミのカチューシャをつけて登校しちゃいましょう!


そうしてみんなに注目を浴びれば、凄く恥ずかしいでしょうが


その代わりにドキドキして女性ホルモンがドバドバと分泌されて育乳に効果大です!


恥ずかしいかもしれませんががんばってくださいね~wwwww』




「――よし、こんなもんでいいか」




 十分ほどかけて、文章は完成した。


 この文面の場合、最後につけた「wwwww」がすべてを物語る。


 これはネタであり、間違いなく真実ではなく、いたずら目的なのだと。


 ましてやあの人前ではお淑やかで清楚な優等生の美優のことである。


 今までせっせせっせと積み上げてきた清楚可憐な美少女のイメージを根底から破壊しかねないネコミミ登校など以ての外と拒否することだろう。


 そしてこのDMが単なるイタズラであることを知って興味をなくし――全ては元通りになるのだ。




「すまんな美優、この垢のことは忘れる。悪かったな――」




 俺は祈るような贖罪するような、様々な思いと共にDMを送信した。


 後はそれなりに頭がいいはずの美優が、さっきのDMがイタズラであることを察してくれることを祈るだけだ。




 俺は美優の育乳垢からブラウザバックし――後は普通に眠気が来て寝つくまで、他のネットサーフィンをして時間を潰すことにした。







引っ越しのストレスが極地に達したので

思いつきで下ネタな話を掲載します。


完全にストレス発散目的の書き溜めナシ、

しかも原稿ナシのカクヨム直書きですので

いつぞや飽きて連載停止するかもわかりません。


「もう少し続けてくれ」と思っていただけた場合は、

たった一言


「続けて」


とコメントなりレビューなり★なりをください。

それ以外の文言は一切要りません。

「続けて」だけで結構です。


よろしくお願いいたします。

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