第2幕

 お風呂場から出ると、狭めの洗面所。

 廊下に出るであろう横開きのドアは、固く閉ざされていた。

 鍵もしまってない、ボロボロなのに、ビクともしない。

 また、困った。


 ――ふと、洗面台の鏡を見る。

 鏡はカビや汚れだらけで、ほとんど真っ黒、何も見えない。

 それでも、塗りつぶされた汚れの隙間に、”何か”が見える。

 私は鏡に手を付き、隙間をじっと覗き込む。

 映っているのは、自分の顔ではない。

 ――鏡の中にいるのは、「――」だった。

 可愛らしい人形のような、茶髪おかっぱでニコッとした女の子。間違いない。

 でも、なんで?

 なんで「――」がいるの?

 だって、「――」はあの時――――




 * * *




「……もうダメ、さっさと逃げようこんなとこオォォッ!」

 絶叫する私。動かなくなった朝志。それを呆然と見つめる、「――」と仮娘。

「……ぇ……? あさしん……? なんで……寝て……?」

 仮娘は死体を見つめたまま後ずさり始め、やがて――

「……か、か、か、かかかかかかかかかかかかかかかか」

 尻もちをついて、壊れたように発声し始めた。

 そんな仮娘の姿に耐えられず、背中を向ける私。

 ――とにかく早く! この家から出なきゃ! 殺される殺される殺される殺される……!

 そんな一心で、震える足を踏み出し、走り出した。

 ――見えた! 玄関のドア! 出られる出られる出られる出られる――!

 脱いでいた長靴もほったらかしに、靴下のまま、私は玄関ドアに手を掛ける――。

「――待ってッ! かり――――」

 そのとき、「――」が叫んだ。

 私は、震えた手をドアノブにかけたまま、ゆっくり後ろを振り返る。

 だがそのとき、「――」はすでに――――




 * * *




 鏡には、自分の瞳だけが映っていた。

 あのとき釘に刺されたはずの左目が、なぜか治っている。




 ――そして、洗面所のドアも、開いていた。




 * * *




 仮娘……、もうすぐ……、会えるかな……、君に……。

 もしまた会えたら、ギュッと抱きしめてあげるんだ……!

 それで、「大好きだよ」って言うんだ。

 仮娘、

 仮娘、

 仮娘、

 カリコ、

 カリコ、

 カリコ、

 カリコ、

 カリコ――――!







 ――なんだか、もう少しで抜けられる気がする。

 このけがらわしい廃譚はいたんの中から――。

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死亡少女TT~戸野砥子の廃譚~ イズラ @izura

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