第4話 真人家
「三瀬、和なのか?」
真人の声は昔と比べ低くなっていた。
再会できた喜びよりも、積もっていた心配・不安を片付けるのに精いっぱいで私は棒立ちしていた。
今まで杞憂の重荷を背負っていたのかもしれない。
私の目に映っている真人は思っていたよりも暗い顔をしていなかった。でも、目に光は通っていないようだ。
「あ、ちょっと待って!今日は塾があるからまた後日会おうよ、また連絡するから!」
色々な感情が混ざっており、聞きたいことが山積みだったため直ぐに塾へ向かった。もしかすると真人にとっては「その場を離れた。」という説明の方が正しいのかもしれない。
塾の授業はいつもの何倍も退屈で、時計の針は足枷をはめているのではないかと疑うほど進むのが遅かった。
塾入室前に連絡したメッセージを何度も読み返し、返信が来ないな、と塾終わりまでドキドキしていた。
最後の授業を終え、焦る手つきで携帯電話を確認すると、真人から連絡が来ていた。
”久しぶり。しばらく連絡も取らずに心配かけて本当にごめん。さっき和くんの好きなイチゴのショートケーキを買ってきたんだ。明日会えるかな?僕んちで。”
明日会いに行く旨を伝え、高ぶる気持ちを落ち着かせながら自転車のペダルに足を乗せた。
相変わらず耳を通り抜ける先生の授業は長い。真人は別の工業高校なので放課後に会うしか方法はなかった。
実際真人はいつも私の家に遊びに来ていたため気づかなかったが、真人家は港に近い少し古びたアパートに母と二人で暮らしていた。
ボタンを押し込んでベルを鳴らすタイプのインターホンを押した。
「ハアイ。あら、和ちゃんじゃないの。真人に会いに来たのかい?」
「はい。もう帰ってきていますか?」
私たちの話声が聞こえたのか、制服姿の真人が奥の方に見えた。「もうケーキ用意してるよ。さあ、上がって。」
玄関に入るとすぐ長い廊下が見える構造なのだが、沢山のダンボールが置かれていた。
真人の部屋は奥の方にあるためキシキシと鳴る廊下を歩いてむかった。
立て付けの悪いドアを開けると、勉強机と押し入れ、布団の置かれた部屋が広がっていた。
「メッセージの件、健から聞いたんだ。詳しく教えてくれない?」
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