2.ACCENT

2-1

 瞬く間に試験期間となった。部活動は制限されて、自習室や図書室は試験勉強の生徒で一杯になっているらしい。他方、教室では勉強したくない生徒が時間を潰すために平時よりも賑やかだった。

 冬木は放課後居残ることをせず、終礼後はたちまち姿を消した。一応砂時計の件もあるからチャットで訊いてみると、市の図書館で過ごしているという。独りで砂時計を傍らに置いて黙々と勉強するのは、私には虚しい。折良く来るかと問われたので、素直にうんと返事をした。

 一度家に帰って私服に着替えた。佐保川に面した図書館は、私の自宅から自転車を十五分ほど走らせると到着する。土手に連なる桜並木が青々として、陽射しを色濃く背負っていた。墨華の羽が艶やかだ。もうじき常夏がやってくる。

「あら、白本さんじゃない」

 駐輪場から入り口に向かう途中でかけられた声に振り返ると、バス停から歩いてくる同じ制服の女子がいた。七夜先輩だった。驚いた私は、

「あ、えっと、その、お疲れ様です」

「お疲れ様。白本さんも勉強?」

「まぁそんなところです」

 七夜先輩も私服だから、私と同様に一度帰宅してからのようだ。青と白の粗いストライプのポロシャツで、胸元に白い小鳥の刺繍がされている。ボトムスは黒いスラックス。一つに束ねられた髪が涼しげだったが、歩く傍ら解いてしまった。

 連れだってガラス戸をくぐる。

「先輩はよくここで勉強しているんですか?」

「時々ね。試験期間は学校が騒がしくなるから頻度が上がるけれど」

「へぇ、冬木と一緒ですね」

「あらほんと? もしかして今日、いるの?」

「いるはずですよ。ほら」

 私は片手でチャットのやりとりを開いて見せた。窓辺の席に座っているらしい。七夜先輩は黒い瞳を露わにして覗き込むと、少し目を細めて、

「私も隣にいいかしら?」

「私は別に構いませんけど」

「ありがとう」

 たぶんこっちね、と先導してくれた先輩について二階へ行くと、書架の周りを巡るように机と椅子が設置されていた。好きに使えるのかと思ったが、勉強はダメだとか制約が記されている席もある。混雑しているときは一寸面倒そうだが、平日という時分だからか人はまばらで、なんら支障なく席を選べそうだった。

 冬木は隅から二つ目の窓辺の席にいた。砂時計を抜けた陽光が机上に白い泡沫を映している。そこに降り立った墨華がやけに目立って見えた。

 二人して近づくと、冬木は徐に面を上げた。七夜先輩がその眼に向かって、お疲れ様と小さく手を振る。冬木は静かに会釈を返すと、私に一瞥を向けた。。言外に説明を求められたように私は思ったので、

「ちょうど入り口で鉢合わせたの」

「そんな、まるで会いたくなかったみたいに言わないでほしいなぁ」

「エンカウントしました」

「より疎外されたような気がするのは私だけ?」と、先輩はおどけたように瞳を露わにした。存外、洒落っ気があるらしい。

「それはさておき、相席いいかしら?」

 えぇ、と冬木は大した動揺もないまま、落ちきった砂時計を逆さに返した。墨華が流れる粒を見つめていた。

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