第6話 息子への手紙 2


次男は夏の盛りに生まれた。

生まれたときから髪がふさふさで

体格が良く顔も濃くて

ぜんぜんあかちゃんっぽくなかった。


色黒で皺だらけでドスのきいた声で泣くから

だれひとりからも、可愛いね~なんて

いってもらえなくって

・・・うぉ・・・お、おとこらしいねー汗

が全員一致の第一声だった。

ちょっと、ガッツ石松にも似ていた。


幼少期はそんな男らしい外観に相反して

好きな色は絶対にピンク色で

ちいさな生き物とか、お人形とか、マスコットとか

どちらかというと女の子が好むものを愛しつつも

ウルトラマンにもしっかり憧れるという

よく考えたらバランスのいい嗜好だったかも。


ウルトラマンになりたいといいはじめた彼を

きっと喜ぶはずってウルトラマンランドに連れて行くと

当時入口にあった像のでかさに驚愕して号泣しはじめ、

ぎゃーーーこわいこわいもーーかえるかえるー!!!を連発、

ウルトラマンの着ぐるみをきたタレントさんと

握手すらしないまま家に帰った残念なこどもは

あんまりいないかもしれない。


まあまあ運動神経が良かったので

少林寺拳法で賞を貰ったりしたこともあったけれど

とにかく飽き性で、バスケやテニスに手をつけては

すぐに面白くなくなって部活難民と化していた。


それでも水泳だけは長く続いた。

泳ぎと狩猟能力はほとんど漁師レベルに成長し

すでに小学生の時

「おかあさーん、イカつかまえた」

と叫びながら、化け物みたいに巨大な烏賊を

後生大事に抱っこして帰ってきたこともある。

買いたてのNIKEの黄色いTシャツに墨を吐かれ

一瞬で黒雑巾と化した日の事はいまも鮮明だ。


高校に入ると、不良漫画に感化されたのか

「目が合っただけの理由で殴り合い」

やんちゃというかアホとしかいいようのない

ベタなやらかし事件をくりかえし、

何度も警察のお世話となったので

この極悪暗黒時代の次男のネタにはいとまがない。


そういえば卒業式も皆と同じ日ではなくて

マンモス私立高校なのに、校長先生他お偉方独占で

たったひとりだけで、数日遅れて執り行われたことは

彼の同級生らの間でも、伝説になっている。

ちなみにこのときは先生に命じられ丸坊主だった。


彼の兄である長男は絵のずば抜けた才能を持ち

同じ高校では成績も優秀で先生達の評判も良く、

年子の弟である次男はいつもそんな兄と比較され

本当にあの兄の弟なのかといちいち言われるものだから

たぶん、面白くなかったのだと思う。

兄と真反対の超絶劣等生というレッテルを

自ら張りにいき、ひそかに対抗していたのかもしれない。


わたしはそんな次男のやらかしに

何度も何度も人に頭を下げ、沢山涙を流したけれど、

次男ほど面白くて笑かしてくれるいいやつは

そうそういないと言い切れる。


ここいらには歩いて数歩で海が在るので

天気の良い日はパンツ一枚だけ履いた河童のように

いまでもふるまっている。

(ちなみに彼は本当に河童を見たこともあるらしい)


はっきりいっていまだにアホ街道を邁進しているし

仕事もなにやってるかよくわからないし、

電話がすぐ止まるし、常に金欠だし、

言葉に主語がないから何言ってるかわからんし

もう人間なのか河童なのかもよくわからない。


しかし。わたしへの、いや人類への

宇宙からのプレゼントと思えば、納得がいく。



次男へ


かあさんのとこに

生まれてきてくれてありがとう。


きみが生まれるとき、きみはあかちゃんのくせに

肩幅があったから壮絶に痛かったんだよね。

けれど、同時に不思議なことに

ありえないくらい気持ちが良かったことも

忘れていません。

すぐにもうひとり生みたいわって思った。

ひとを生む痛みとしあわせを、

同時に教えてくれたんやね。


きみといると毎日、眉間に皺がよるけれど

なにか面白くてしょうがありません。


ひとつおねがい。

自分で食べる分は自分で稼いでおいで。


あと、夜中とか朝方に

お迎えに来てってラインしてくるのは

やめてください。



ここまで読んで下さった方へ。

・・・次男ネタはとても一度で描ききれない為

連載予定の小説の中で

小出しにしていこうと思います(笑)













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しおさい日誌 御願崎冷夏 @uganzaki

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