第4話 猫屋敷

もう何年も前から

放置された古い家が

わたしの海散歩道の途中にある。


かれこれ6年くらいは

廃屋の状態のままになっているような。


はじめに見つけた頃は

一応ドアも窓も閉まっており、

ぎりぎり誰か住人がいるような

雰囲気もあったりして

そもそもここまで傾いてはいなかったのに。



このごろこの界隈は

都会の人たちに人気が高く、

別宅として買う人もいるし

そもそも移住したい市町村としても

ここ数年、トップ3に君臨しているらしく。


たとえ廃屋状態であっても、

けっこうな値段で売れていくと

きいたことがある。


けれどこの廃屋はなんで

売れてないんだろう。

しかも年々いたみが酷くなっていて

ドアも壊れて窓も割れて殆どなくなっていて

遂には躯体事体、けっこう傾いてるように見える。


さすがに上物は使えなくても

解体すれば土地だけでも即売れそうな立地。


解体にお金のかかりそうな雰囲気でもないし

木造の小さな家なのでそんなに手間もいらないだろう。

なのに何年もずっと放置され

日々風化し続けているということは

なにか特別な事情があるのかしらん。

いや、あるのだろうね。


廃屋と化した家が

なりがちなのが猫屋敷。


この家も実は例にたがわず

一時期は庭や縁側の下に

野良猫が数匹いるのを見たことがあり

どこかの家の外飼いの子と思われる

首輪をつけた猫なんかも

混ざっていたりして

当時のここいらの猫達にとっては

とても平和そうな空気が流れていた。


散歩の途中で呼び寄せて

ナデナデさせてもらってこともある。

こっちおいでーと呼びかけたら

こっちにはこなかったけどコロンと寝転がって

お腹をみせてくれた子なんかもいた。


なのにその子たちはある時を境に

ぱたんと姿を見せなくなった。

あのあほくさいコロナ騒動の

始まった頃からだった気がする。


世の中猫にやさしい人ばかりではないし

きょうび、外飼いを容認する人も激減しているし

野良猫に畑を荒らされるからと殺鼠剤を餌に入れて

一気に何匹も処分していた人がいると聞いたこともある。

あるいは近所の人の通報で、保健所がきたのかもしれない。


それ以降も僅かに残っていたここいら海辺の野良猫は

保護猫団体によってTNRが施されたらしく

道端でたまに出会う子のほとんどが、

耳の先っぽをサクラの形にカットされていたりする。

その子たちは地域猫として定期的に餌を貰っているので

一応は平和に暮らせているのかもしれない。


にしても猫が少ない。

耳カットの子すらも、

この頃はごくたまにしか、見かけない。

一時期は猫達の楽園になっていた

廃屋ももう倒壊寸前。


人の世はやさしいのかな。

ほかの生き物に。

猫たちに。

そもそも人とて生きづらいとされる世の中なのだから

猫たちにとっては、なおさらなんだろう。

やってられなくなって片っ端から異次元へ

転生しているのかもしれない。


そんなことを考えながら

うちのルルちゃん(あるいはガンミちゃん)の

頭をぐりぐり撫でまわしてみる。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る