第3話 下を向いて歩こう

太陽は明るいのに

本日のそこらへんの海は

風がつよくて

波は高く、ちと荒れぎみなり。


綺麗な海の青を写真に撮ろうと出たのに

煙なのか霞なのか隣国の砂なのか

なにかよくわからないやつでもやっていて

いつもの青が見えなくて


わたしのこころは晴れていたのにな。


なにかいきなりやる気を失って

とぼとぼ歩く。


散歩道は小さな港の近くまで

綺麗にまっすぐに伸びていて


古くからの家々が行儀よく並んでいて

あたらしく越してきたひとらの家には

古民家をお洒落なたたずまいにするために

リノベーションとかってものが施されていて


そこには海を眺められる綺麗な縁側が

たいていオープン仕様でくっついていて

どうぞお座りくださいって

言われてるような気がするのだけど

あ・座っても別に文句は言いませんけどねって

注釈もついているような気もして

今のところ座る勇気がない


空は晴れているのに

きもちが晴れ晴れしなくなってきたのは

海のご機嫌が悪いせいかしらん


いつもこの時間になると

ゆらゆら出てくる野良猫たちの姿もなくて


まっすぐな道の向こうにある

神社にお詣りするのに

お賽銭を持ってきていたけど

またこの次にしとこう

呼ばれないときもあるのです


境内から見下ろせるあの特別な場所から

高らかに海の青をうたいたかったのに

この風と霞の具合からして

ちょっと今日はできそうにないし


しょぼん


こころざしなかばの

中途半端なかえり道

下を向いてとぼとぼ歩いていたら


古くなった道を

やり直したのであろうと思われる

コンクリートに刻印された

誰かさんのかわいい足跡をみつけた


これはたぶん猫の肉球の形かしらん

なんか球の数が多い気もするけど

海に向かってダイブしたように見える


引き潮の時ならガードレールの向こうに

砂辺があらわれるから

ここいらの猫なら普通にできたはずとか

きっと好きな子を追いかけて

全力で駆け抜けたに違いないとか


無垢な犯罪の状況証拠について

海辺の猫の恋愛について

あれこれ想像をめぐらせて

ちょっとだけ楽しくなってきたりして


コンクリートが固まる前に

やっちまった無法者は


どうかくれぐれも

うちの猫ではありませんように。






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