竜神召喚とリンク


毎日毎日、様々なパターンで魔力を流され、データを取られていく。無駄に抵抗すると蹴られるので大人しく魔法陣に自ら入る。


あの激痛にはどうやっても慣れなくて毎度のように死ぬほどの痛みを与えてくる。脱走を試みたこともあったが監視カメラが至る所に設置してあり、逃げ道なんて無かった。



実験が始まって約1ヶ月ほど。正確な日付は分からないが、感覚的にはそれくらいだ。毎日休みなく実験に駆り出される日々。こんな非人道的な行為が許されている世界なのだろうか。


それとも、国に無断でやっている無法団体なのか。それを知る術は今の所無い。そして、この施設、あまり広くなく、実験対象も、私一人だけの様で、なんだか寂しい。


……いや、他の人が居たら私と同じ目に遭う訳だよね。いなくて良かった。


心が折れてしまいそうになる。こんな絶望は、美少女になれない事を悟った時くらいだ。


いや、美少女になれない方が私にとってはより深い絶望だ。


まあ、こんな風に沢山思考できているわけなんだけど、実はこれには訳がある。

私の身体は既に限界ギリギリで、痛みくらいしか感じられなくなっている。

ほとんど喋れないし、表情とかもう死んでいる。


今の私は……ゲームの一人称視点で物事を見てる感じだ。心を別の場所に隔離して、完全に折れるのを防いでいる。私がここでどれだけ喜びを表そうと、リアルの私の表情などには反映されないのだ。


こんな風に無意識的に、心を守ったからこそ、こんな風に冷静に、思考を保つことが出来る。


もちろん完全に切り離しているわけじゃないから、痛いものは痛いし、普通に色々と感じる。


でも、何とかここまでやってこれた。思考を放棄した時点で人間じゃなくなると思っている。だからこそ、こうして思考だけは守るのだ。


でも、それもここまでかもしれない。


「さて、データも十二分に取れた事ですし、そろそろ、実行しますかね」


実行……それは多分、竜神を召喚するってことだろう。前に言っていた。七つの魔力宝石全てを最大出力でリンクさせる事で召喚を行う……らしい。


魔力宝石一つ増えると倍の痛みが襲ってくる。七つは未だ未知数。七倍の痛みなんて想像もしたくない。身体が無意識にガタガタと震え、これから起こりうる事に対して怯えを示している。


心が絶望一色に染まっていく。逃げたい。逃げ出したい




……誰か…助けてよ……





「〜ッあぁぁぁぁ!!」



痛い痛い痛い……!!


大量の魔力を無理やり身体の中に押し込まれて抜けていく……神力に変換する工程をすっ飛ばしてしまっているのでは無いかという程に無理やり身体の中を通り抜けていく。


今までとは比にならない程の魔力を注ぎ込まれ、身体から大量の神力が溢れ出て、天に登っていく。


徐々に空に魔法陣が浮び上がる。

巨大で、神々しく、神の名に相応しい魔法陣。


「おぉぉ!神力の爆発的な増加を検知しましたよ!ついに、ついに召喚されるのです!竜神が!!私の前に!」


より一層強い光に空が包まれた後、魔法陣の中心から竜神が召喚される。

その姿はまさに、ドラゴン。透き通る、まるでクリスタルのような水色の鱗に覆われた巨大な竜神。その澄み渡る空の様な瞳が私を捉える。



「ふむ、此度の召喚者は……ふはははは!

中々に綺麗な魂では無いか!この様な者に召喚されたのは久しぶりだ……穢れた自己愛に満ちた愚かな者であれば蹴散らしてくれたが…どうやらその必要は無いようだ。良き縁として、受け入れよう」



……え?思ってた声と違う。威勢のある仙人ボイスかと思ってたのに……この声は、この声は…美少女ボイス!絶対に美少女だ。人化とか出来ないのだろうか。もしできるなら絶対美少女だ。間違いない。私の美少女センサーが反応してる。


「おぉ!偉大なる竜神様よ!我が身の前にご降臨くださり、まさに恐悦至極にございます!さあ!その少女と共に世界を手にしましょう!」


「誰だお主は……ふん、穢らわしい魂をしておる。世界なぞに興味は無い。失せろ羽虫が。消滅させるぞ?」


……いや、言ってる事、怖ぁ。

私に話しかけてる時の声のトーンと全然違う。底冷えするような声音だ。


「そ、そんなことを仰らず……どうかそのお力を我々にお貸し頂きたく……」


【警告! 警告! 侵入者を感知 警告! 警告! 侵入者をかn……】


「何!?クソ、こんな時になんだと言うのだ!まさか、魔法学園が嗅ぎつけてきたか……おい!こっちに来い!」


そう言ってこちらに近づいてくる男。


……まずい…さっきの反動で動けないままなのに……助けて…!



「彼女に近寄るでない!痴れ者がぁ!」



突如として、私と男の間に強力な風が発生し男が壁に吹き飛び叩きつけられた。それと同時にこちらへ向かってくる複数の足音も聞こえ始めた。


「ふむ、少々面倒な事になったな……致し方あるまい。少女よ、勝手ではあるが、こちらでリンクさせてもらうぞ……まあ、気に入ってしまったから離すつもりも毛頭なかったからな。早いか遅いかの違いだけだ」



リンク……?一体何を……

考える間もなく、竜神の身体が霧のように消えていき、その霧が私の方に向かって来る。

抵抗することも出来ず霧は私に……ぶつかること無く、身体の中に入っていった。


え?入ってる……


霧が身体に入ってくると同時に暖かさも感じられた。とても、安心するような心地のいい暖かさだ。


……なんか、眠く……なってきた…かも


『ゆっくりと眠りなさい。起きた時に説明しますからね』


頭の中で竜神の声が響く。その声は酷く優しい声で、私の意識を刈り取るには十分すぎる程の暖かみがあった。



「ーーーーーか!」



意識が途切れる寸前、こちらに何かを叫びながら駆け寄って来る複数の人たちを見ながら、眠りについた。





その時、私は気づかなかった。先程まで何も付いていなかった指に、青い宝石が付いた指輪がある事に。


その宝石は、竜神の瞳の色と酷似していた。

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