流川とみんなで寮食
一通りの寮の説明が終わり、部屋で休憩していると時刻は18時半前になっていた。
「あーお腹すいちゃったわ。ご飯食べに行きましょう!」
ジャスミンは流川を伴って一階にある大食堂に向かった。エレベーターを待っている間、同じ階の候補生たちが次々と部屋から出てきた。
「夕食は18時半からなのよ。」
ジャスミンが流川に説明すると、流川はあたりを見回した。流川の近くには日本猿に連れられた柴犬と、理科室に置いてあるような髑髏、そしてハシビロコウがエレベーターを待っていた。流川は本当に多種多様な生物たちが同じ候補生としてこの寮で生活しているのだなあと感心した。
ジャスミンと流川はエレベーターで一階まで降りると、大食堂の前まで来た。
「ここが大食堂の入り口よ。ここを入ると中でいくつかのエリアに分かれているの。」
ジャスミンは入り口横に掲げられた「大食堂マップ」を指さしながら流川に説明し始めた。
「ここはぐるっと円形になっていて、それぞれ食べたいものを取って真ん中の飲食スペースか、テラスで食べるって感じよ。流川っちが食べられそうなものは『人間用』のエリアにあると思うから、そこから見ましょう。その後一周食堂内を回ってみましょう。」
流川は順応性の高い男。トイレやお風呂のように『人間用』以外に何用があるのか内心楽しみであった。
ジャスミンと流川はまず、入り口からほど近い『人間用』エリアにやってきた。
「わあ。すごいですね!!」
テーブルの上には和食、洋食、中華からどこの国の料理かわからないものまでずらっと食事が並べられている。流川は今まで見たこともないような大規模なビュッフェを前に感嘆した。
「ビュッフェスタイルだから好きなものをとって、あっちにある席で食べるって感じね。」
ジャスミンは大食堂の真ん中にある広ーーーーいスペースを指さした。そこにはすでに多くの候補生が食事を始めている。
「じゃあ、別のエリアでも見に行きましょう。」
ジャスミンは流川を連れて『人間用』のエリアを出ると、仕切りの向こう側にあったエリアに移動した。
『人間用』の横には『宇宙人用』のエリアがあった。仕切りの中を覗いてみると、数組の宇宙人たちが銀色のパックをいくつか手に取っている。
「宇宙人たちの食事はこんな感じなんですね。」
流川は興味津々だ。
「一回友人からもらったことあるけど…。」
ジャスミンは何も言わなかった。
宇宙人用コーナーの横は草食獣用コーナー、鳥類用コーナー、ゴースト用コーナー、雑食用コーナー、海洋生物用コーナーにロボット用コーナー…etc。それぞれに合った食事が準備されている。その横、一際大きなエリアが設けられていた。流川は仕切りの中に入るなり、目を見開いた。
「こ、これは…。」
テーブルの上には牛、豚、鳥、羊、山羊など数々の生肉が所狭しと盛られており、ライオンや虎、白熊の候補生たちがビュッフェを楽しんでいる。
「ここは肉食獣用よ。」
ジャスミンはあまり肉は好きじゃないのか、入り口あたりで立ち止まっているが、焼肉大好きな流川は目を輝かせながら肉の山を見て回った。
「すごい…!美味しそうな肉ですね!!」
流川は近くにいたサーバルキャットに話しかけている。
「ちょっと失礼。」
その時、流川の横を大きな影が通り過ぎた。その姿は日本昔話か大阪でしか見られないような虎柄のパンツに立派な角。ぎょろっとした目が印象的な妖怪。
赤鬼はたくさん盛られた美味しそうな肉たちの横を通り過ぎ、エリアの奥に別の皿に盛られた見たこともないような肉たちを皿に取っている。流川は赤鬼とその肉をよくよく見ようと一歩近寄った。その時、
「流川っちー。そろそろ次行きましょうよ。」
とジャスミンが若干焦ったような声で流川に声をかけた。
「あ。はーい!」
流川はサーバルキャットに軽く会釈すると、肉食獣コーナーを出た。
「…ごめんなさいね。」
ジャスミンはなんだかしょんもりしている。
「え?どうしたんですか?」
流川は突然の謝罪にポカンとしている。
「…あの肉。まあ、弱肉強食とは言われるし、これが食物連鎖だとは思う…。皆んな平等に扱った結果なんだろうけど。肉食獣コーナーに置かなくても良くない!?せめて鬼コーナー作りなさいよって話。…まあ、私も配慮が足りなかったわ。」
ジャスミンは申し訳なさそうに黙ってしまった。
「え?何の話ですか?」
流川は肉の山やそれを楽しむ動物たちを思い返してみたが、ジャスミンが謝るようなことは何も思いつかなかった。
「…あ、あなたが気にしてないなら大丈夫よ!さ、だいたい回ったからもう食べましょ!ご飯取ったらあそこの席で落ち合いましょう!」
ジャスミンはそう言うと『モンスター用』のエリアに入って行った。流川は、ジャスミンはモンスターになるんだなあ。などと思いながら、人間用エリアへと入っていくのだった。
流川が他のエリアを見て回っている間に、人間用エリアは他の候補生で賑わっていた。流川はトレーと数枚の皿やカトラリーを取ると、料理を見て回った。
「レタス、トマト、ヤングコーン、きゅうりの和物、海藻サラダ…」
流川は真面目な男。料理も一品ずつ吟味している。
「青紫蘇ドレッシング、ゆずマヨ、シーザー…青紫蘇にしよう。」
ようやく流川がサラダコーナーを通過した時にはもう5分以上が経っていた。
その後も、前菜、揚げ物、汁物、ご飯、麺、デザート、ドリンク、そして仙人用の霞までじっくりと吟味しながら皿にぴっちり並べると、30分以上かけてようやくジャスミンの元に帰ってきた。
「おっそーーーい!もう待ちくたびれたんだけど!?鬼にでも食われたのかと思っちゃったわ。」
ジャスミンはブラックジョークを吐きながらも流川のことを待っててくれたらしい。
「すみません!!全部見てたらこんなに時間が経ってしまって。」
流川はトレーを置くと、席についた。
「流川っち真面目そうだもんね。じゃあ、いただきましょう。」
ジャスミンの前にはサーモン丸々一匹とホタテ海十数個、グラスに山のように盛られたかき氷が並べられている。ジャスミンはナプキンをつけ、ナイフとフォークで上品にサーモンを切り分け口に運んだ。流川は初めて見るエスキモーの食事を興味津々に観察している。
「流川っち。食べづらいんだけど。」
ジャスミンは流川の視線に気がつき、食べる手を止めた。
「あ。すみません。つい。」
流川は慌てて箸を掴むと、焼き魚やサラダを突き始めた。
「まあ、アタシも初めの頃は色んな種族のいる生活が物珍しくて、同じようなことしちゃってたわ。」
ジャスミンはワイングラスに入ったキンキンの氷水を上品に飲んだ。
「本当に興味深いです。」
流川も湯呑みに入った緑茶を啜りながら辺りを見回した。流川の右の席では、見たことある水色のツインテール宇宙人が銀色のパウチをちゅうちゅう吸っている。
「…。」
流川は宇宙人の食事シーンをまじまじと見つめた。
「オマエ、マダハラヘッテルノカ?コレヤル。」
流川の視線に気づいたピピは、トレーに乗っていた銀色のパウチを一つ流川に渡した。
「あ、ありがとうございます。」
流川がピピからパウチを受け取ると、
「イイッテ。ジャナ。」
と、キザな感じでそのまま食堂を後にした。流川はもらったパウチを開け、味見をしてみた。
「…まっず。」
こうして流川は初めての『エキサイティングな寮食』を終えたのだった。
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