流川とカオスなルームメイト
「…すごい広さですね。」
流川はエレベーターホールに着くなり、上を見上げながら唖然とした。ホールには数十機のエレベーターがずらっと並び、候補生でごった返していたのだ。
「じゃろう。これだけの候補生がいるんだ。だがな、寮の部屋はもっとすごいぞ。」
銀次郎は得意げに目をキランと光らせた。
「そうなんですか!?楽しみだなあ。」
流川はまだ見ぬルームメイトや警察学校以来の寮生活に胸を躍らせた。二人は他の候補生と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
「15階です。」
エレベーターの扉が開くと、目の前に広くて長い廊下が現れた。
「わあ。」
流川は辺りを見回しながら一歩一歩と歩みを進めた。
「1515と1516ならエレベーターから近いな。よかった。下手するとエレベーターまで数分かかるからな。」
銀次郎は一部屋一部屋の前に掲げられた部屋番号を見ながら胸を撫で下ろした。
「ありました!1515と1516。」
流川は嬉しさと緊張が入り混じった声で銀次郎にそう伝えた。
「おお!ルームメイトが色々案内とかしてくれると思うぞ。じゃあ、また後での。」
銀次郎は流川にそう伝えると1515の扉を開けて部屋に入って行った。
「よし、僕も。」
流川は1516の部屋のドアノブを回した。
「こんにちは!流川翼と言います!よろしくお願いします!!!」
流川はドアを開けるなり、職場での癖で敬礼しながら大声で自己紹介した。
「…!」
机で作業をしていたルームメイトは驚きすぎて声も出ないようで、室内はしんと静まり返った。
「ど、どうもー。」
ルームメイトはヒラヒラと手を振った。
「…はっ!!!」
流川はルームメイトの顔を見るなりピシッと固まった。
「私も自己紹介するわね!初めまして。アタシはジャスミン!アナタのルームメイトよ。ごめんなさいね、新しいルームメイトが来るとは聞いていたんだけど、もうこんな時間だったのね!」
ジャスミンは机の上を雑に片付けながら席を立った。流川は唖然としながらジャスミンの挙動を見守っている。
「ちょっと今マニキュア塗ってて。換気するわね。」
ジャスミンは窓を開けると、流川の近くまでのそのそとやってきて握手を求めた。
「握手しましょ。ヨロシク。」
「…は、初めまして。」
流川は目の前に壁のように立ちはだかる2.5m程の白いふさふさの大男(?)を見上げ、手を握り返した。
「さ、入って入って。アナタのベッドはこっちね。」
ジャスミンは流川を部屋に入れると、早速説明を始めた
「服はここのクローゼットを使って。」
流川は色々と聞きたいことがあったが、ジャスミンは話す隙を与えない。
「机はこっち側。あ、棚は下の段使っちゃってー!」
流川はジャスミンの怒涛の説明を聞きながら必死に場所を覚えてゆく。
「室内の案内はこんな感じかしら?何かご質問は?」
ジャスミンはようやく一度話を切り、流川の様子を伺った。
「えーっと…貴方は…その、何になるんですか?」
流川の質問は非常に漠然としている。しかし、ジャスミンはこの手の質問には慣れっこのようで、
「アハハ、そうよね!私はエスキモーよ!」
と笑顔で答えた。
「エスキモー…。雪男ってことですか?」
流川はジャスミンの白くふさふさした大きな体を見回しながら尋ねた。
「…雪男…ですって…?」
突然ジャスミンはワナワナと震え出し、流川は突然のことに冷や汗をかいた。
「…ちっがーーーーーーーう!!!!」
ジャスミンが大声で吠えると部屋全体が揺れた。
「雪男!?あんたね!私はエスキモーよ!あんな奴らと同じにしないで頂戴!!フン!!」
流川はジャスミンの機嫌を損ねてしまったらしく慌ててフォローした。
「あわわ、すみません!!!僕エスキモーは初めて見たもので…。雪男も見たことは無いんですが…」
ジャスミンは白くてふわふわのベッドに腰掛け、ピンクのキラキラリップを塗り直しながら、
「次間違えたら…承知しないわよ。」
と立ち尽くす流川に釘を刺すのだった。
「じゃあ、気を取り直して。寮内の設備を案内するわね。」
流川はジャスミンに連れられて寮の部屋を出ると、廊下を歩き出した。
「この階には50部屋、合計100人が生活しているの。」
廊下にはずらっと部屋が連なっており、他の候補生が先輩候補生に連れられて、流川と同じように寮内の案内を受けている。ジャスミンは一つの扉の前で立ち止まった。
「ここが共用のトイレ。」
ジャスミンがトイレのドアを開けると、家ぐらい広いトイレと手洗い場が目に入った。
「大きなお手洗いですね…。」
流川はスリッパに履き替え、奥まで足を進めた。
「トイレの大きさは小、中、大、特大」
ジャスミンは一つずつ扉を開けながら説明してゆく。
「川」
「川!?」
「草原」
「草原!?」
「砂場」
「…」
「ここは次世代バイオリサイクルで、こっちが宇宙の瞬間圧縮袋…まあ好きなとこを使ってって感じ。川は流されないように注意してね。」
「流される…。」
流川は聞いたことないトイレの様式に目を白黒させた。
「次がお風呂。」
ジャスミンと流川はトイレの横にある大きなドアを開けた。
「わあ。これまたすごい広さですね。」
「ええ。ここはまたお風呂が最高なのよ!」
二人は広い脱衣所を進み、浴室のドアを開けた。
「ここは内風呂、そっちがシャワー室。」
ジャスミンは次々に扉を開けてゆく。
「ここ抜けると露天風呂。こっちにはスチームサウナもあるのよ。」
ジャスミンはどんどんと進んでゆく。
「すごいですね!サウナあるのはありがたい!」
流川は広いサウナ室を覗いて胸を躍らせた。
「次はもっとすごいんだから。」
ジャスミンはサウナ室の横の重そうな戸の前に立ち、バンと開け放った。その瞬間とんでもない冷気が二人を包んだ。
「…さっむ!!!!!!」
思わず流川は叫んだ。
「ここはアタシのオススメ。極寒冷浴よ。どう?」
ジャスミンはそのまま寒冷浴場に入ると、吹き荒ぶ猛吹雪の中くるっと回ってみせた。
「…すごいです…。」
流川は肩や頭に雪を積もらせながらガクガク震えている。ジャスミンはギョッとして急いで扉を閉めた。
「で、まあこっからは適当に聞き流して。流川っちが入ることは絶対ないと思うから。一応紹介だけね。」
ジャスミンは隣の扉をどんどんと開けてゆく。
「ここは砂浴、ここは泥湯。こっちが灼熱の熱湯風呂ね。でこっちが電気風呂。スーパー銭湯にある電気風呂とは訳が違うから、間違っても入らないようにね。それでこっちは超高圧洗浄機で…」
ジャスミンの寮案内は続いていくが、流川は思いの外順応力が高く、もうちょっとやそっとのことでは驚かなくなっていたのだった。
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