守護霊がこうなら人もこう。
「流川くん、この書類頼めるか?」
「はい!」
「流川くん、10分後に署長と会議なんだけど同席してもらえる?」
「はい!」
「流川、今週の非番の日変わって。」
「はい!」
どんな頼みでも二つ返事で受け入れるこの男の名は流川翼。城西警察署交通課に勤務する巡査で、ぱっちりとした目と特徴的なたらこ唇、坊主頭がチャームポイントだ。勤続10年、無遅刻無欠席の真面目さが売りで、同僚からの信頼も厚く、上司からも可愛がられていた。
「おいおい、あんまり無理すると体壊すぞ?また非番の日を変わったらどんどん休みが先延ばしになるだろう。」
流川の後ろをふよふよと漂う細身のスキンヘッドおじは流川に耳打ちした。この男は流川の守護霊の柳銀次郎。困っている人を放って置けず、何でもかんでも仕事を受け入れてしまう流川を心配しているようだ。
「大丈夫。僕体だけは丈夫なので!」
流川は銀次郎を安心させようとニカっと笑顔を向けた。しかし手だけはPCのキーボードをひたすらに打ち続けている。銀次郎はどうしたものかとため息をついた。
「それでは、これより来週から始まる春の交通安全週間の役割分担を発表する。小宮、川崎は広報。黒谷は第一小学校で交通安全教室の担当を。」
交通課の課長の山科はどんどんと名前を読み上げる。
「で、流川、南、古川は手分けしてスクールゾーンで登下校時の交通整備を頼む。以上!」
山科課長の言葉が終わると同時に昼休憩のチャイムが鳴った。
「流川、スクールゾーンの分担どうする?」
声をかけてきたのは流川が今週の非番の日程を変わってあげた南だ。南は後ろになんだかチャラそうな金髪の守護霊を連れている。
「僕は残ったところでいいよ!」
流川は元気にそう返した。
「そう。じゃあ、僕は北一丁目通り辺りを担当しようかな。古川さんは学校の正門前の横断歩道を。流川は学校の裏門前の大通りのところでもいい?」
南はなんやかんや一番楽そうな細い通りを担当し、交通量の多いところを流川に担当させるのだった。
「私は大丈夫ですが…。」
何だか頼りなさげにもじもじとしているおじさんの守護霊を連れた古川は流川の方をチラッと見上げた。
「いいよ!」
流川は相変わらず邪気のない笑顔で答えたが、流川を守護する銀次郎は物言いたげな表情で南を睨むのだった。
その次の週の月曜日の早朝、流川は『春の交通安全週間』とデカデカと書かれたゼッケンをつけて小学校の裏門前の横断歩道に立った。この道はスクールゾーンと謳っておきながらゴミ回収車や大型トラック、バスなどがガンガン走る大通りで、しばしば交通事故も起こるような大きな交差点もある。
「あの南ってやつー!こいつにばっかり大変なポジション押し付けやがってー!こんにゃろ!こんにゃろ!!」
銀次郎は落ちていた木の棒で地面に南の下手くそな似顔絵を描き、その上で地団駄を踏んだ。
「まあまあ。一週間だけですし、それにこの道路は本当に危ないんです。僕が見ておかないと。」
正義感の強い流川は黄色い手旗を持って信号が青に変わるのを待っていた。
「おはようございます。」
ランドセルを背負った女の子が流川と銀次郎の横で止まり、あいさつをしてきた。
「おはよう!今日も元気にお勉強頑張りなさいね。」
流川は女の子に向かってそう返すと、信号が青に変わったタイミングで信号の真ん中辺りまで走り、交通整備を始めた。しばらくすると、当校もピークを迎え多くの学生がこの横断歩道を渡り始めた。ここの信号は比較的青信号も赤信号も長いため、一度に多くの学生が横断歩道を渡ることになる。
「はい、おはよう!おはようー。おはよう!君!ふざけながら渡ったら危ないぞ!」
流川は笛と手旗を駆使しながらどんどんと横断歩道を渡る学生を捌いていく。その横で銀次郎も見よう見まねで学生を渡らせる。
「おはよう。おはよう。コラー!走るんじゃない!!あっ!点滅してる!!あっ…!君はちょっと走ろうか?ね?」
一時間半ほど経った頃、あらかた学生は少なくなってきたためそろそろ撤収しようと片付けをしていた時、小さな赤ちゃんを抱っこした母親が赤信号で止まった。
「ご苦労様です。」
幼児の母親は二人に挨拶した。
「どうも、おはようございます。」
流川は手旗やゼッケンをしまいながら挨拶した。信号が青に変わり、その親子は信号を渡っていった。その時流川は息を呑んだ。なんと母親が抱っこしている赤ちゃんについている守護霊がめちゃくちゃ美人だったのだ!その守護霊は色白で儚げ。黒のストレートロングヘアで前髪をセンターで分けている。まさにドストライク!!彼女は流川がこちらをガン見していることに気づき、微笑みながら会釈をした。
「…。」
流川は会釈を返す余裕もなく、呆然と立ち尽くした。一方、銀次郎…も彼女に見惚れていた!
ドン!!!!!!!!!!
大型トラックが流川と銀次郎に向かって突っ込んだ。
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