第3話 佐野の話

高1の時に、近くの本屋で知らない女の人にあった。

ここの本屋はあまり売れていない所だったから、

人がいるのは珍しいな、と思った。



気になって話しかけてみた。

買っていたのは、子供向けの絵本。

息子にあげると、喜んでくれるらしい。



その日から何度か、本屋で女の人と話すようになった。

息子が好きな絵本の話、息子が好きなおやつの話、

息子が好きな折り紙の色の話。



全部、小学校の頃川に突き落とされた、

殺人事件にあった、息子の話。



高2になってから、その女の人とは話していなかった。

自然とあの本屋に行かなくなっていた。

そういえばあの時は、夏休みで暇してたっけ。







変わったことといえば、千賀が隣に居ることくらいだった。



学校の周りには、廃墟や使われなくなった建物が多い。

だから、放課後はいつもそこによっていた。

千賀は真面目そうだし、そういうところに行ったこともないだろうから、

無理やり連れて行った。



廃墟の屋上に着いてから、千賀はずっと夕日を眺めていた。

千賀は夕日が好きらしい。

昔、よく家族と一緒に眺めたんだとか。



千賀が今どんな気持ちなのか気になった。

俺はそんなに夕日は好きじゃない。お腹空くし。



そんな事を考えながら、千賀と寝転んだ。



気付いたら、眠ってしまっていた。

もう日が沈みそうだ。



なんだか喉が渇いていた。

近くに自販機があったのを思い出して、体を起こした。

冬用のブレザーを、千賀の横に置いていった。



自販機を見つけた時、向かいの道を一人の女の人が歩いているのを見つけた。

あの時の女の人だった。



咄嗟に、春村さん!!と声をかけたけど、

春村さんは気付かずそのまま歩いていってしまった。



そうだ、彼女は春村というのだった。



そういえば、最近耳が悪くなってきて困ってるって言ってたっけ。



春村さんは、両手に花と水桶と柄杓を持っていた。

お墓参りにでも行くのかな。



冷たいお茶を買ったけれど、まだ4月だし、ブレザーを置いてきたから

ちょっと寒かった。

あったかいのにすれば良かったかなぁ。



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