第3話

「聞いておりますか?」

「あ、ああ。すまん。……嬉しい話? さっき晴明が言っていた事か? 鬼たちがどうのこうの」

「ええ。私は友人の玉藻をあなたは酒吞童子を喪った。好機よ」


 血の気が鬼の俺より多いなあ。

 頬を掻く。

 この血の気の多さついつい昔を思い出してしまう。

 

 数十年前、たしか……摂津で鬼子として生まれて山寺に捨てられてそのまま山を彷徨って会った同胞。

 既に鬼を集め大江山の鬼たちを従えていた時に出会った。

 出自により蛇も扱え、酒を飲む度強くなる。その様は恐らく他の鬼たちにはかっこよく映ってしまったのだろう。あとはあの容姿と純白の衣と綺麗な白い髪のせいだろう。

 その白い髪も存在感の眩しさも全部不快。

 俺と奴の初めての挨拶は拳。一度二度挑まれて三度目は語ることにした。

 話してみると案外馬が合う。他の鬼の羨望の眼差しではなく拳。奴が言うには気に入ったというらしい。俺と同じ。やはり話が合う。

 それからは盃を交えていた。春は桜夏は花火秋は虫の鳴き声を肴に嗜んでいた。

 ……今思えばあの時が一番平穏だったと思う。

 それから鬼たちが都を乗っ取ろうとしているなどという噂が流れたのだろう。それかおいたが過ぎてしまったか。

 大江山の鬼たちは不意打ちを食らって……。

 思い出すのも嫌になる。

 あれから酒は口にしていない。



 今となってはあの庵の男の死に際さえ見れればどうでもよい。という体なのだ。あの時満身創痍だった俺を匿ってくれた葛葉には感謝はしている。

 京に潜伏した時。渡辺綱や他の武人と対峙しては惨敗これを繰り返していた。その復讐も橋やら死臭のする羅生門やらで失敗してもう角が取れてしまった。何をしても戻るはずはないのだから。

 冷静に戻り友人の遺言を守ろうとここで余生をすごしている。


「え……燃えないの?! 妖たちももちろんだけれど同族の鬼たちが集まっているのよ?」

「おまえ本当に狐か? 血の気が多い」

「はあ……。随分と大人しくなってしまったのね。ここへ来た当初は鬼気迫るものがあって私も怖かったというのに。何度引き留めて狐に変えたか分からないわ」


 憐れんだ目を向けられてしまった。

 正直先刻晴明がちらっと話した時も己の心が躍ることはなかった。

 あの男がこの付近に来たのは偶然か否か。

 警戒はしたほうがこの血の気の多い女狐のためだろう。ご隠居したらしいが腕は健在だろうし部下に知られては山狩りにあってしまう。

 晴明が摂津に来たのも過去鬼が生まれていたからと考えれば察しが付く。

 俺もあの男と同様隠居同然なのだから対策はしておきたい。

 

「詳しく聞いたのだろう。話だけは聞いておこう」

「やる気でたの? まあ、いいわ。これを聞けばきっと動きたくなるでしょうから。晴明から聞いたことは鬼が集まっている事。その場所は大江山ではなく伊吹山らしいのよ。そして首領はなんと復活した酒吞童子らしいわ。今回は鬼だけでなく他の妖も恨みがあるものを集めているといったところよ」

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