第1話 新たな街、新たな出会い

ひなたは新しい制服を身にまとい、父親の車から降りた。目の前に広がる赤穂高校は、新たな日常への扉を開く場所だった。ひなたは深呼吸し、周りを見渡した。潮風が穏やかに吹き、彼の不安な気持ちを少し和らげてくれるようだった。


「行ってらっしゃい、ひなた。」父親が車から声をかけた。


「うん、行ってくる。」ひなたは短く返事をして、校門に向かった。


初日ということで、ホームルームは自己紹介から始まった。ひなたは内向的で、前の学校での経験から、人前で話すことに緊張を感じていた。しかし、今回は違った。彼は、新しいスタートに期待と希望を持ち、意を決して自分のことを話し始めた。


「えっと…、僕はひなたです。趣味は…歌うことです。」


教室の中は静まり返り、ひなたは一瞬不安になったが、次の瞬間、クラスメイトたちの拍手が響いた。彼は安堵し、隣の席に座る女の子がにっこりと微笑むのを見た。


「私はあすか。よろしくね、ひなたくん!」その笑顔は温かく、ひなたの心にほのかな灯をともした。


昼休み、あすかはひなたに話しかけてきた。


「ひなたくん、歌うのが好きなんだって?私たちのカラオケサークルに興味ある?」


ひなたは驚いた。カラオケは彼のひとり時間の楽しみであり、他の人と一緒に行くのは考えたこともなかった。しかし、あすかの輝く瞳と、彼女の親しみやすさに心が揺れ動いた。


「うん、興味あるかも…」と、ひなたは答えた。


その日の放課後、ひなたはあすかに連れられて、カラオケサークルの活動に参加することになった。サークルルームに入ると、他のメンバーであるたろうとさくらが待っていた。


「初めまして、ひなたくん!」たろうが元気よく手を振り、さくらは優しく微笑んでいた。


「ようこそ、カラオケサークルへ!」さくらが歓迎の言葉をかけた。


その日、ひなたは少しずつ心を開き、久しぶりに他の人と一緒に歌う楽しさを味わった。サークルの顧問であるかずみ先生も現れ、彼の音量の好みに合わせて機器の調整を手伝ってくれた。ひなたは、その親切さと温かい雰囲気に心がほぐれ、少しずつ自分の殻から抜け出していくように感じた。


こうして、ひなたの新しい日々が、潮風の吹く街で始まった。

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