ひなたのうた~潮風の吹く街で

みっちゃん

プロローグ

赤穂市は、風の街だ。瀬戸内海から吹き寄せる潮風は、どこか懐かしさと温かさを含んでいる。


高校2年生のひなたは、その風を感じながら、ゆっくりと駅前の商店街を歩いていた。彼は大きなヘッドホンを着け、好きな歌を口ずさんでいる。引っ込み思案で感覚過敏のひなたは、いつも音の世界に自分を閉じ込めることで、周りの喧騒から逃げてきた。


そんな彼が、この街に引っ越してきたのは、父親の転勤が理由だった。新しい学校、新しい街、そして新しい人々。ひなたにとって、それは心の中に不安と期待の入り混じった、新しい冒険の始まりだった。


駅前の小さなカフェで、ひなたは父親と簡単な朝食をとった。父親は忙しそうに新聞を読み、ひなたはその隣でメニューの端に小さな音符を描いていた。


「今日は新しい学校だな、ひなた」と父親が声をかける。「うまくやれるか?」


ひなたは小さく頷き、口元にほほえみを浮かべた。


学校に向かう途中、ひなたは見覚えのある小さな看板を見つけた。「カラオケ・パラダイス」。ひなたの胸は高鳴った。カラオケは、彼の唯一の趣味であり、自由になれる場所だった。だが、ひとりで楽しむのが彼のスタイルだった。大きな音は苦手だし、誰かと一緒に行くことが煩わしく感じたからだ。


学校に着いたひなたは、初めてのホームルームで、偶然隣の席になったあすかという女の子と出会う。彼女は明るくて社交的で、ひなたとは対照的な存在だった。彼女の口から「カラオケサークル」という言葉が出た瞬間、ひなたの心は軽く揺れた。


それは、潮風の吹く街で始まる、ひなたの新しい物語のプロローグだった。

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