第2話 予言
「
深く低い声が近くからした。顔を上げると八瀬が立っていた。
「暑いよね。これ良かったら」
汗はかいているものの冷たいことがよく分かる水だった。
「ありがとう」
キャップを確認した。ちゃんと未開封だった。
「そのさっき」
「なんで私を見たの?」
「見た?」
「見たじゃん」
「苦しそうだったから」
「意味わかんない。理解者ぶって何をしたいわけ? 水ありがとう。行くね」
「貸しているんでしょ?」
おどおどと震えながら言った八瀬が気に食わなかった。
いつか誰かにバレると思っていた。
何か交換条件を求められるのだろう。
女の子たちはすぐに気づくし、いやもう気づかれているかもしれない。
なるべく同じ高校は避けていた。
援助交際といえばその通りだ。貸して借りて少額の代償を課す。援助交際と違うのはこの少額というところだけだろう。八瀬は何を言っていくのだろう。
「あんたの童貞を卒業させたらいいの?」
「今から普通じゃない話をするけど、僕は未来から来たんだ」
八瀬ってコレか。
「そういう病気なのね。今の話、黙っていてあげるわ」
「明日、
明日は確かに泰斗が明日家に来る。
「情報はどこから出ているか教えてくれたら、今から家で童貞卒業させてあげる」
「深山さんの体はいらない。なんか気まずい」
私に恋する男と友人とかなのだろう。私に恋するって特別天然記念物だと思うけど、その子は私と一体何をしたいのだろうか。
帰りにスタバに行ってカラオケやボーリングや映画を観て、暗闇の中で手を握って、どこか景色のいいところでキスをする。
その子にとっては初めて女の子の部屋に入って、エッチには興味あるけど一緒に勉強して、クーラーの効いた部屋のベッドの上でアイスクリームを食べて寒いねって笑顔で言い合って、その子がベッドに私を押し倒して、愛撫も無しに焦っていて。
なーんて、めんどいから告白されたら即エッチが手っ取り早い。そんな順番は今更私には必要ない。その子はきっと私に貸してもらって童貞を卒業して彼氏として胸を張って、エッチの自慢をするかもしれない。それを裏で怒る。
なーんて、めんどいからラインブロックで一言関わるなと言ってさよなら、アマギフくれないだろうな。損だけど、こういうことも人生経験の一つだ。
「それで友達が私の事好きなの?」
「今は言えない」
「今はって何よ」
「また今度いうよ。明日当たっていたら教えてね」
次の日、現れた泰斗は右腕にギブスをはめていた。友達と遊んでいて体育館の二階から落ちた。そんなことを言っていたと思う。
暑いからシャワー借りると言って部屋を出ていこうとした。
「そういう約束ではないでしょ」
最初に約束をする。一階のシャワーは使わないで。
「いいじゃん。汗まみれなの、心配しなくてもギブスは濡らさないよ」
無言で睨んだ。
「分かったよ。でもさっさとしようぜ。今日は上に乗ってよ。いつものは腕がこんなだから出来ないし」
男は結局、自分が楽をして快感を得たいらしい。
多分、下から突かれて、てきとうにあえいで、コンドームに出して終わり。
ピロートークもせずにさっさと服を着てさようなら。今日は少し違うようだ。
「俺たち付き合わない? 体の相性もいいし、調子が良かったら何度でも出来るよ? 俺だけでいいじゃん」
「ギブスをはめた男に言われても」
「ま、それもそうか。ということは治ったら付き合うでいいってこと?」
「さっさと帰れ」
「考えておいてよ」
泰斗は階段を大きな音を立てて下りていった。
私はもうきれいじゃない、きれいという概念は二番目に付き合うところまで行かなかった男にされて終わった。
一階には弟がいる。引きこもってもう三年になる。ちゃんと学校に行っていれば中学二年生だ。昔は私によくなついてくれた。
おねえちゃん大好きといって憚らなかった。それが恥ずかしく嬉しかった。
弟が部屋から出るのは食事とお風呂だけ、食事は義務のように食べて、お風呂は短い。弟が引きこもってから家の空気は重かった。
両親はいかに学校というものが大切か、一日だけでも行ってみないと弟に言い聞かせるが、その話をすると部屋にこもってしまう。
いくら入浴が短くても弟が入る風呂に弟の知らない男を入れたくない。食卓とお風呂と部屋が弟の居場所なのだから守りたい。
エッチしている声と音は聞こえているはずなので、もう守るべき何かは無いも同然だ。汚れていると思われるだろうな、登校拒否でも年頃だ。
弟、ごめんね。私はきれいじゃないの。好きでもない男とエッチをして、アマギフもらって、スタバに行って、あきるほどに新作を食べるだけ、それだけの女の子なの。
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