あなかし
ハナビシトモエ
第1話 あなかし
最初の男の名前、忘れたな。ふと穴を貸している時に頭に浮かんだ。上に乗っている男の視線は私に向いていて、私は視線を合わせずに男の部屋を見た。この男はしきりに気持ちいいかと聞いてくる。
貸しているので彼が思うよりは気持ちよくない。エッチは作業だ。誰かが雑誌でエッチは運動で気軽に出来る遊びだと言っていた。不感症なのかもしれないけど、ここで貸すと後々スタバとかアマギフとかくれるから私の生活が少し潤う。アマギフで買うものなんて無いけど。
時々、息が荒くなって、そういう声を出して、ほとんど棒読みのキモチイイをいう。男を見上げるとやや苦しそうだ。そういえば、前に生理いつ来たっけ。
なんでこうも男っていく時に出すぞ行くぞって言うのだろうか。不思議だな。黙って出せばいいのに。
行為が終わるとさっさと帰っていく。向こうは穴を借りて、私は貸した。役割が終われば、解散だ。
豆腐屋さんがやってきて、今は夕方だと知った。時計も見ずに貸していたのだ。なんだか少し癪である。シャワー浴びて換気して証拠を消すか。
そう思って、夕暮れなのに暑さの抜けない窓の外にむけてマットレスを押し出した。
夏休み前でスポーツの応援に行こうという話になりだしている。正直、暑くて面倒なので避けたいし、焼けてしまうのはあとが痛い。
でも私は女の子なので、そこは素直に行きたいと言って、みんなで終わりのない話し合いをして、一番発言権のある女の子がスタバに行こうと言ってみんなを連れ出すのだ。
フラペチーノなんて二回飲めば飽きるので、他に飲み物を探すけど、まとめ役が新作を飲みたいというとみんな「私も新作飲みたかったの」と、言ってみんな新作を食べる。
新作なんて初日と次の日に食べたから、味なんてとっくに覚えているし、胃がもたれそうになるけど、私は女の子だから、まとめ役に従って、インスタに投稿するようのストーリーに使う写真を撮られる。
いつメンなんてもう時代遅れのメッセージをいれて、誰がみるか分からない必要性を感じない宣伝活動をする。
誰かがこの前、買った化粧品が良かった。あれ汗ですぐに取れるよね。最近暑くない。私は今、女の子という職業をしている。
「そういえば、アリスって肌白いよね」
こっちに回ってきた。私はあたりさわりのない回答をしようとして「そんなことないよ」を、選んだ。
私は高校生にして楽しいことが一つもない。今も楽しいけど気は使うし、エッチは貸しているだけなので感動は無い。
「これからさ、カラオケ行かない?」
よくもそんな金あるなって思う。私みたいなことをしていると思う瞬間はあったが、聞くと社長令嬢らしい。金しかくれないとしたら、それはそれで闇は深そうだ。
ここで私は用事があるというとどんな用事か聞かれ、大した内容で無ければカラオケに連行される。その強制力が少し面倒だけど、私は女の子だ。
「見てよ。あそこ、
私はクラスの男子に興味はない。子供っぽいとかではなくて、人間に興味が無いのかもしれない。だから八瀬はクラスの隅にいそうな男子という認識だ。
どうせ最後まで一緒なら卒業アルバムに載るだろうし、その時にこういう男子と女子がいたのだと思って、押し入れにアルバムいれて、生活様式が変わる時に取り出して懐かしがるくらいでいいだろう。
その時もわたしは穴を貸しているのだろうか。
誰も車道を挟んだ向こうにいる八瀬に声はかけずに、少しからかうような視線を送っている。どうやらあの八瀬というクラスメイトのクラスカーストの中では立場低いらしい。
「あいつどうせ童貞だよ。かわいそー」
エッチをしていなかったら、恥ずかしいらしい。しても別に楽しくないよ。でも男は気持ちいいのか。八瀬に今度貸してやってもいいかもしれない。
「カラオケに誘う?」
まとめ役の冗談めいた発言にクスクス笑う女の子たち「八瀬だから野獣になることは無いよね。襲われたらどうしよ、こわーい」と。
八瀬がこちらを見た。一瞬だけだったから、他の子は気づいていないようだ。その刹那の視線に「君はそのままでいいの?」と、見透かされた気がした。
「八瀬に借りているシャーペン返さなきゃ」
「へ? アリス。八瀬と仲いいの?」
まとめ役の意外そうな顔の裏にある侮蔑の声が聞こえた。
「この前、筆箱忘れて」
「アリスうっかりさんだもんね。先に行っているね」
そういって、一団は向こうに行った。ただの予感だったのにカーストが下がって八瀬を追って、何がしたいのか自分でも分からない。
そもそも八瀬がどんな話し方をして、どんな性格か知らない。
うろうろと歩き回っても八瀬はいないし、ムッとした熱気にさらされて、買った時に冷たかったサイダーも持っているうちにぬるい。
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