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次の日の朝、継人は六時すぎに目を覚ますと、朝食も取らずに自転車で近所のホームセンターへと向かった。家を出るとき、継人は車庫にハイエースがないことを確認した。
ホームセンターに着くと、継人はレンガやよしずなどのある裏門のわきに自転車を止めた。材木売り場の入り口から建物に入ると、人目につかぬよう物かげに隠れながら通路を進んでいく……と、行く手左側の棚の向こうに、父の特徴的な形をした頭の先が突き出ているのが見えた。裏手から近づくと、橙色のジャンパーと灰青色のズボンといういつもの作業服姿の父がロープ売り場の棚の前に立ち、なにやら考え込んでいる……カートの中には業務用の特大ポリ袋とガスホース、それに粘着テープが数巻乗っている。いつもの工事の前の消耗品の買い物にも見えるが、しかし……父がガスを使ってくるだろうことは予想された。なにせその道のプロなのだから……
頭の高さをぴたりと固定する相撲のすり足で、継人は棚の間を滑るように移動する。インパクトドライバーの飾られた門から入ってジグソーの中庭へと抜け、グラインダーの花咲く草原や、エアコンプレッサーがとぐろを巻く暗い森を通って昇圧器の沼へと至る途中、継人は次々に頭に浮かぶ斬新なアイデアに興奮して我を忘れそうになる。先へ進めば進むほど新たな視野が開け、なすべきことの全体像が明確なイメージとなって目の前に立ち現われるのを彼は見る。自分はやはりあの父の子だ……それは呪縛でもあり、魅惑へのいざないでもあるが、いまはむしろそのことを積極的に引き受けて、物事が目の前に開くがままに、立ち現われるがままにまかせようと思う。ナイロン結束バンドの売り場へと向けてすり足で高速移動しながら、継人は自分を変態を終えたばかりの昆虫としてイメージする。体中にある節からこんこんと湧き出てきては自分の姿を変え、自分を未知の未来へ向けて飛翔させようとする力、自分を盲目的に突き動かす不可思議な力に、継人はすべてを放擲して身を委ねる……
終
父の名前 荒川 長石 @tmv
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