第23話 魔力量の測定
「あれってもしかして……」
「ナイト君?あの水晶玉みたいなの知ってるの?」
中庭に設置された水晶玉が嵌め込まれた台座にナイトは見覚えがあり、大分前の話になるが同じような物を見たことがある。それは「適性の儀式」の際に利用した水晶玉とそっくりだった。
「もしかして適性の儀式をするんですか?」
「わうっ!?よく知ってますね、魔術師以外の人は適性の儀式の事は知らないと思ってました」
「あ、そうだ!!私も子供の頃に受けたの思い出したよ~」
適性の儀式とは水晶玉に触れた人間の適性魔力を調べるための儀式であり、魔術師を志す人間ならば必ず受けなければならない儀式である。ナイトの場合は魔力が「無色」なので残念ながら魔法を覚える事はできないが、ハルカの魔力は「白色」なので白色魔術師となった。
「魔力の色を知りたいのなら俺は無色ですよ」
「私は白色だよ」
「そうなんですか~……でも、これから行うのは普通の儀式じゃありませんよ。魔力量も調べるために必要なんです」
「魔力量?」
ポチ子は台座の前に移動すると、ナイトとハルカを見渡す。そしてハルカから先に儀式を受けるように促す。
「じゃあ、ハルカさんから始めましょうか。この水晶玉に手を翳してください」
「こう?」
「いい感じです。では、しばらく待ってくださいね~」
ハルカは言われた通りに水晶玉の台座に両手を翳すと、数秒後に水晶玉が輝き始める。ここまでは適性の儀式と同じだが、水晶玉の内部が白色の液体に満たされていく。
「わわっ!?な、なにこれ!?」
「わうっ!?な、何ですか!?」
「いや、何で先生が驚いてるんですか!?」
水晶玉の半分近くまで満たされた液体を見て三人は驚き、ポチ子は何処から取り出したのか定規で液体の量を測る。
「こ、これは凄いです!!今年の入学生の中でも一番の魔力量です!!」
「そ、そうなの!?」
「もしかして液体の量で魔力の大きさが分かるんですか?」
「はい、その通りです~」
ポチ子によれば魔術師が水晶玉に掌を翳すと、魔力に応じた量の液体が湧きあがる仕組みらしく、魔力量が大きいほど水晶玉が液体に満たされるという。ちなみに光の色はそれぞれの属性に合わせて変化するらしく、白色魔術師の場合は「白色」だが赤色魔術師の場合は「赤色」の液体が湧きあがる。
この液体は「魔液」と呼ばれ、水晶玉に触れた人間の魔力を計る液体金属らしい。水晶玉の内部は空洞ではなく、魔術師が触れた際に水晶玉の内側部分が溶けて魔液へと変化する仕組みだった。
「大人の魔術師の方でも水晶玉を半分まで満たす人は滅多にいませんよ~ハルカさんは魔術師の才能があるんですね~」
「えへへ、照れちゃうな……あ、でもナイト君の方がもっと凄いんだよね。だって、選定の儀式の時に物凄い光を放ったんだから」
「えっ!?」
「わふっ!?それは本当ですか?じゃあ、ナイトさんのも計ってみましょう!!」
「ええっ!?」
ハルカの言葉にポチ子は目を煌めかせてナイトに振り返るが、ナイトとしては冗談ではなかった。選定の儀式の時はアイリスの魔法で誤魔化したに過ぎず、ナイトは正式に儀式に受かったわけではない。
(ど、どうしよう……ここで受けないと怪しまれるし、かといって儀式を受けても俺の本当の魔力量がバレる)
ナイトは自分がどの程度の魔力を保有しているのか詳しくは知らないが、少なくともハルカよりも魔力を持っているとは思えない。王都に辿り着く際にナイトは魔物との連戦で魔力を使い切り、警備隊に襲われた時は硬魔を発動させるだけの魔力も残っていなかった。
「どうしたんですか?この水晶玉に手を翳すだけでいいですよ」
「ナイト君、恥ずかしがらなくてもいいよ。君の魔力を私にも見せてよ~」
「……う、うん」
二人の期待する目で見られてナイトは全身から冷や汗を流しながらも台座に近付く。この時にナイトは腕輪に視線を向け、ある方法を思いつく。
(待てよ、変身すればライラさんの魔力を取り込んで魔力を増やす事ができるんじゃないか?いや、駄目だ……二人に見られているのに変身なんてできるはずがない)
人前で姿を変わるわけにはいかず、覚悟を決めてナイトは水晶玉に掌を翳す。しかし、何故か水晶玉には変化は起きなかった。
「あれ?全然光らないよ?」
「いったいどうして……」
「わうっ!?お、思い出しました!!この水晶玉は無色の魔力の人には反応しないんでした」
「「ええっ!?」」
ポチ子の言葉に二人は驚き、特にナイトは拍子抜けしてしまう。だが、魔力量を計られないのはナイトにとっては都合が良かった。
「す、すいません。生徒の中で無色の魔力の人は滅多にいないので忘れてました」
「へえ……じゃあ、もしかして俺以外に無色の魔力の人はいないんですか?」
「ポチ子が就任してからは無色の魔力の人は初めてです。でも、ポチ子が来る前は無色の魔力の人も居たと聞いてます」
「そうなんだ。普通なら無色の人は一番多いのにね」
「その言い方は辞めてくれない?何だか働いてない人と誤解されそうだし……」
魔術師ではない人間は全員が「無色」であり、色違いの魔力を持つ者は1000人に1人と言われている。勇者候補生の殆どは色有りの魔力だが、ナイトのように無色の魔力の使い手は滅多にいない。だが、歴代の勇者候補生の中にも無色の魔力の人間はわずかながら存在したらしい。
(今の勇者学園には俺以外に無色の魔力の人間はいないのかもしれないな……まあ、別に良いか)
ナイトは勇者になるのが目的ではなく、勇者になりうる人物を探すために学園に入学した。自分の魔力が何色だろうと関係なく、検査を受けた以上は学園へ入学できるのかを確かめる。
「これで検査は終わりですか?」
「はい、後は入学手続きを済ませれば今日の所は帰っていいですよ~」
「帰っていいと言われても……俺達、王都に住んでないんですけど」
「あ、そうなんですか。それなら学園が指定する宿屋まで案内しますね」
「宿屋?勇者学園は全寮制だと聞いてたけど……」
「学生寮はあるんですけど、新しい人たちを招き入れるために大掃除中なんです。それに今は学園長が不在で今年の生徒の入学手続きを終えるまで時間が掛かるそうなんです。だから今年の入学生の方はしばらくは王都の宿で寝泊まりしてもらいます。勿論、宿代は学園側が払うのでご安心下さい~」
「やったぁっ!!私、王都の宿屋に泊まってみたかったんだ!!」
「学園長……」
勇者学園の学園長と聞いてナイトはアイリスから言われた言葉を思い出す。
『ナイトさん、学園長との接触はできる限り避けてください。勇者学園の学園長はハジマリノ王国一の切れ者ですからね。下手をしたらナイトさんの正体がバレてしまうかもしれません』
『もしも正体がバレたら……』
『確実に始末されるでしょうね。だから学園生活では目立つ行動はできる限り避けてください』
『わ、分かりました』
アイリスの助言を思い出してナイトは学園長との接触は極力避けるように心掛け、学園長が不在と聞いて安心してしまう。しかし、学園長が戻らなければ正式に入学手続きは済ませられず、当分の間は王都の宿屋で生活する事になりそうだった。
「入学手続きの方は私がしておきますから御二人は校舎の裏手に向かってください。そこに宿屋まで送り届ける馬車があるのでそれに乗って下さい」
「また馬車に乗るのか……」
「今日はずっと馬車に乗ってる気がするね」
王都に向かう間も、魔法学園に移動する時も馬車に乗ったが、今度は宿屋に向かう馬車に乗る事にナイトとハルカは少し疲れた表情を浮かべる。移動は楽だが、ずっと座りっぱなしは身体にきつい。しかし、王都の宿屋に泊まる機会など次はいつ訪れるか分からず、少し楽しみに思う。
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