第9話 魔力感知

「――はぁあああっ……」

「え、急に凄いため息……も、もしかしてまずいこと聞いちゃった?」

「いや、別に……」



昔の出来事を思い出して落ち込んだナイトにハルカは不思議に思い、彼女はナイトが実は凄い魔術師ではないかと疑ったが、実際は魔法の才能も持たないである。


魔術師になるためには才能が必要不可欠であり、こればかりは努力ではどうしようもできなかった。適性の儀式にて水晶玉を光らせられなかった時点でナイトの魔術師への道は断たれてしまう。



(あの後はしばらくは立ち直れずに他の人に心配かけちゃったな……)



自分が魔術師になれないと知ってナイトはショックのあまりに部屋に引きこもり、他の者達が心配して何度も部屋に訪れた。そしてナイトを立ち直らせたのはアイリスだった。



(アイリス様に言われた言葉がなかったら俺は……)



落ち込んで部屋に引きこもっているナイトの元にアイリスは訪れ、彼女のある言葉を聞いてナイトは立ち直った。その事を思い出してナイトはアイリスがどうしているのか気になる。



(そういえば魔王様とライラさん、見送りに来てくれると言ったのに来なかったな。何かあったのかな……)



王都行きの馬車にはアイリスとライラは乗り合わせず、二人は別の方法で王都へ向かうと聞いていた。だが、王都に向かう前にナイトを見送ると約束したのだが、何故か街を発つ際に二人の姿が見かけなかった事にナイトは疑問を抱く。



(まあ、あの二人なら大丈夫か。それにしてもこの子は優しいな……さっきまで睨んでたのにもう普通に話してくれる)



ナイトの身の上話を聞いたせいかハルカは先ほどまでの態度は一変し、もう彼に対して怒っている様子はなかった。ナイトはこの機会に彼女と仲良くなれないかと思って話しかける。



「えっと、ハルカさん」

「呼び捨てでいいよ。儀式を受けたという事は同い年なんだよね?」

「分かった。なら俺もナイトでいいよ」

「あ、私は君付けで呼ぶね。男の子を呼び捨てにするのはちょっとなれなくて……」

「そ、そう……」



少しは距離が縮まったかと思ったが、ナイトの言葉にはハルカはやんわりと拒否する。それでも最初と比べれば普通に話せるようになっただけでもマシであり、ナイトは王都に到着する前に色々と話を聞く。



「ハルカは魔術師だよね?どんな魔法が使えるの?」

「え?それは……あれ?ちょ、ちょっと待って!!私が魔術師だって何で分かったの?」

「え?いや、それは……」



ナイトは何気なく聞いたつもりだが、ハルカは自分が魔術師だと見抜かれた事に驚く。これまでの話でハルカは自分が魔法を使えるなと教えていないにも関わらず、どうしてナイトが知っているのかと戸惑う。



「ど、どうして私が魔術師だって分かったの?」

「いや、それは……魔術師みたいな格好してるから?」

「ローブを着ているだけで魔術師だって思われたの初めてなんだけど……」



ハルカはローブを着こんでいるが、それだけの理由で魔術師だという証拠と決めつけるのは無理があり、普通の人間ならば彼女が魔術師だとは気づかないだろう。ナイトがハルカの正体が魔術師だと気付いたのは別の理由がある。


最初に会った時からナイトはハルカが只者ではないと見抜き、集められた子供達の中でひときわ目立つ存在だったからこそナイトは彼女に声をかけた。他の子供とハルカの違い、それは彼女の隠された力が関係している。



(参ったな、そういえば普通の人は魔力をできないんだった)



ナイトはハルカの正体に気付いた理由とは、アイリスから教わったとある技術が関わっていた――






――時は遡り、魔法を覚えられないと知って落ち込んだナイトは部屋に引きこもってしまった。そんな彼の元に食事を持ってきたアイリスが訪れる。



『ナイトさん、まだ落ち込んでるんですか』

『その声は……ま、魔王様!?どうして僕の部屋に!?』

『他の人たちに頼まれて食事を持って来たんですよ。ずっと何も食べずに引きこもってるんでしょう?さあ、ご飯を持って来たので中に入れてください』



ゴンゾウやライラが訪れた時でさえナイトは部屋から出なかったが、流石に主君であるアイリスが訪れたとあっては扉を開けないわけにはいかなかった。彼女を部屋の中に招くと、一緒に食事を行う。



『魔法が使えないからって落ち込む必要なんかありませんよ。魔族だって皆が魔法を使えるわけじゃありませんしね』

『でも……僕は人間だから魔族の人みたいに強くなんかなれませんよ』

『その言葉は聞き捨てありませんね。人間の中にも魔法なんか使えなくても魔族よりも強い人はいますよ』

『えっ!?』



アイリスの言葉にナイトは驚愕し、普通の人間が魔族よりも強くなれるとは信じられなかった。そんな彼に対してアイリスは提案を行う。



『私は魔族の誰よりも人間の事を把握していると自負しています。彼等は確かに魔族と比べれば力は劣っているかもしれませんが、それを補うだけの技術を編み出した人間もいます』

『技術?』

『興味があるのなら教えてあげましょうか?』



ナイトはアイリスの言葉に考え込み、正直に言って普通の人間が魔族に勝つ方法などあるのかと疑ってしまう。しかし、アイリスが嘘を吐くなど思えず、彼女を信じて教えを乞う。



『お、教えてください!!』

『いいですよ。では最初に魔力感知の技術を教えましょう』



この日からナイトはアイリスに鍛えてもらい、魔族に対抗するために人間が編み出した技術を覚えた――






――魔族に対抗するために人間が編み出した技術「魔力感知」とは、名前の通りに魔力を察知する能力である。全ての魔族は例外なく強い魔力を有して生まれるため、魔力感知を扱える人間は魔族の存在を感じ取ることができる。


仮にサキュバスのように人間に擬態していたとしても魔力感知を扱える人間ならば正体を見抜く事ができた。実際にナイトも人込みの中に紛れていたアイリスやライラの正確な位置を把握できたのは、二人の魔力を感じ取ったからである。そしてナイトがハルカの正体が魔術師だと悟った理由は彼女が集められた子供達の中で一番強い魔力を有していたからだった。



(この子の魔力は人間離れしている。魔族でも滅多にこれだけの魔力を持つ人はいなかったぞ……)



ハルカと最初に出会った時からナイトは只者ではないと気付いていた。何故ならば彼女の魔力量は一般人とはかけ離れており、魔王であるアイリスや四天王のライラには及ばないが、それでも並の魔族と比べても高い魔力を宿していた。だからナイトはハルカが魔術師ではないかと考えた。



「君ってなんか変わってるね……もしかして凄い人だったりするの?」

「いや、別にそういうわけじゃ……あれ?」

「どうしたの?」



会話の途中でナイトは違和感を感じ取り、馬車の後方に移動して外の様子を伺う。そして馬車の後方から大量の砂煙を舞い上げながら接近してくる巨大猪の姿を捉えた。




――フゴぉオオオッ!!




草原を駆け抜けながら馬車を追跡する猪を見てナイトは野生動物ではないと察した。猪からは普通の動物ならば有り得ない大きさの魔力を発しており、野生動物とは異なる進化を遂げた「魔物」と呼ばれる生き物だと見抜く。

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