第8話 魔法の才能
「そ、そんな……私よりも凄く光ってた」
「え、えっと……」
「っ……!!」
ナイトはなんと声を掛ければいいのか分からずに女の子に近付くと、彼女は涙目を浮かべて睨みつける。先ほどはナイトを応援してくれたが、自分よりも強い光を生み出した彼に悔しそうな表情を浮かべる。
(やばい、完全に誤解されてる……けど、否定するわけにはいかないんだよな)
先ほどの光の正体をまさかアイリスが生み出した魔法の光だと明かすわけにはいかず、ナイトは女の子に弁明もできなかった。その様子を見ていたライラは困った表情を浮かべてアイリスに振り返る。
「アイリスちゃん、ちょっとやり過ぎじゃないかしら?あの女の子が可哀想よ」
「う~ん、でもあれしか方法はなかったんですよ」
ナイトが合格しなければ勇者学園に入学すらできないため、それだとアイリスの計画に大きな支障をきたす。しかし、ナイトの目的は勇者となり得る人材と交流を深める事であり、彼の前に合格した女の子も将来勇者になる可能性も否定しきれない。
このままではナイトが将来の勇者候補の女の子から恨まれてしまう恐れがあり、それを避けるために策を打つ必要があった。アイリスは考えた末に魔王領からとある人物を呼び出す事にした――
――翌日の早朝、選定の儀式に合格を果たしたナイトは王都行きの馬車に乗り込む。彼の他には先に合格した女の子も同乗しており、名前は「ハルカ」というらしい。
「えっと……よ、よろしくね」
「……ぷいっ」
ナイトが話しかけてもハルカは頬を膨らませて顔を反らし、まともに会話するつもりはないらしい。しかも車内には二人の他に人間はおらず、気まずい雰囲気が漂う。
(はあっ……魔王様のせいで嫌われちゃったよ)
王都までどのくらいで辿り着くのかは知らないが、完全に嫌われてしまった女の子と一緒に馬車に乗るのはきつかった。だが、しばらく経つと意外な事にハルカの方から話しかけてきた。
「……ねえ、君の荷物はそれだけなの?」
「え?いや、まあ……」
ハルカに言われてナイトは自分が持って来た鞄に視線を向ける。これから二人は勇者学園の学生寮で暮らす事になるため、当分は家に戻る事はない。だからハルカは大きめの鞄に荷物をまとめてきたが、ナイトの場合は近所に出かけるような小さな鞄しか持ち合わせていない。
(この鞄、魔王様から貰った魔道具だって言うわけにはいかないしな……)
ナイトが所持する鞄は「
アイリスはナイトのためにいくつかの魔道具を貸し出し、サキュバスの指輪と収納鞄以外にも戦闘や日常生活に役立つ魔道具もいくつか受け取っていた。それらの類は収納鞄に預けており、いつの日か使う機会が訪れるかもしれない。
「君……名前はナイト君だったよね。いったい何処からやってきたの?」
「えっと、俺は……レイの村からやってきたんだよ」
「レイの村?聞いたことないけど、何処にあるの?」
「……今はもう誰も住んでないよ」
ナイトはアイリスと出会う前はレイという名前の村に暮らしていたが、盗賊に襲われた際に村は壊滅し、生き残ったのはナイトだけである。家族も他の村人も全員殺されてしまい、もしもアイリスと出会わなければナイトも野垂れ死にしていただろう。
「盗賊に襲われて他の村の人は死んじゃったんだ」
「えっ!?そ、そうだったの?ごめん、変なことを聞いて……」
「もう大分前の話だから気にしなくていいよ」
「……じゃあ、今までずっと一人で旅してきたの?」
故郷を失ったナイトが一人で生きてきたのかとハルカは不思議に思い、ここでナイトは正直に答えるべきか悩む。まさか馬鹿正直に魔王に拾われて生きて来たなどと言えるはずがなく、だからといって下手な嘘を吐くと後々に取り返しがつかないような気がして言葉を選ぶ。
「えっと、村が襲われた後に偶々通りがかった旅人さんに助けてもらったんだよ。その人の故郷に連れて行ってもらってずっと一緒に暮らしてたんだけど、勇者を探す……いや、勇者になりたくてこの国に戻ってきたんだ」
「あ、やっぱり他の国に暮らしてたんだ。変わった格好してるから珍しいと思ってたんだ」
「そ、そう?」
ナイトが身に着けている衣服はハジマリノ王国では珍しい代物らしく、初対面の時からハルカはナイトが自分の街の人間ではないと気付いていたらしい。彼女はナイトの話を聞いて納得するが、その一方でナイトにどうしても尋ねたいことがあった。
「ねえ、もしかして君って凄い力を持ってたりしないの?」
「凄い力?」
「だって、選定の儀式であれだけ凄い光を出したんだよ。もしかしたら魔法を使えたりもするの?」
「魔法……」
ハルカの言葉にナイトは苦笑いを浮かべ、子供の頃の出来事を思い出す――
――アイリスに拾われてから五年ほど経過した後、ナイトは魔王である彼女の役に立ちたいと思って身体を鍛えていた。だが、いくら身体を鍛えても他の魔族には到底及ばず、まだライラから教わった「流拳」も完璧に使いこなせなかった。
『ううっ……今日もゴンちゃんに勝てなかった』
ミノタウロスのゴンゾウと人間のナイトでは圧倒的な身体能力の差があり、組手ではいつも負けてしまう。どうにか彼に勝ちたいと思ったナイトはある事を思い出す。
『待てよ、そういえばゴンちゃんはミノタウロスだから魔法は使えないと言ってたな。なら、僕が魔法を使えるようになればゴンちゃんにも勝てるかも……』
魔族の中でもミノタウロスは強靭な肉体と並外れた身体能力を誇るが、その反面に魔法などの力は全くと言っていいほど扱えない。
サキュバスであるアイリスやライラのように魔法が扱えるようになれば自分もゴンゾウに勝てるのではないかと考えたナイトは早速相談に向かう。
『魔王様!!俺に魔法を教えてください!!』
『魔法……ですか?ナイトさんが?』
いきなり自分の元に訪れたナイトにアイリスは驚いたが、彼の話を聞いて納得した。
『なるほど、ゴンゾウ君に勝つために魔法の力を身に付けたいという事ですか。う~ん、それはちょっと難しいですね』
『や、やっぱり無理ですか?もしかして人間の僕だと魔法は覚えられないんじゃ……』
『いえ、別に人間だから無理だとは限りませんよ。実際に人間の中にも魔法は扱える人はいますし……問題があるとすればナイトさんに魔術師としての才能があるかどうかです』
『さ、才能……?』
話を聞いたアイリスはナイトを連れて城内に存在する「儀式の間」と呼ばれる広間に連れ出す。こちらの広間は普段は立入禁止されているため、ナイトも入るのは初めてだった。
『魔術師になりたければ「適性の儀式」を受けてもらいます。この水晶玉を使ってナイトさんがどんな魔法の適性があるのか確かめる事ができます』
『うわっ……大きい』
儀式の間の中央には水晶玉が嵌め込まれた台座が存在し、その前にナイトを立たせるとアイリスは最初に自分が水晶玉に触れた。
『よく見ていてくださいね』
『うわっ……ひ、光った!?』
アイリスが触れた途端、水晶玉は「虹色」に光輝く。その美しさにナイトは見惚れてしまうが、アイリスが手を離すと水晶玉は輝きを失う。
『もしもナイトさんに魔法の才能があれば今のように水晶玉が反応するはずです。水晶玉が輝いた色に応じて適性の高い魔法を見出す事ができます』
『じゃあ、もしも光らなかったら……』
『その時は魔術師になるのは諦めるしかありませんね』
ナイトはアイリスの言葉を聞いて緊張してしまい、身体を震わせながらも水晶玉に手を伸ばす。水晶玉に触れる直前、ナイトは目を瞑ってしまう。
(お願いだから光ってよ!!)
祈りを込めながらナイトはゆっくりと瞼を開くと、自分の手に挟まれた「無色」の水晶玉が視界に映し出される。残念ながらナイトは「魔術師」としての素質が無い事が証明され、膝から崩れ落ちた――
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