第5話 サキュバスの指輪
「ナイトちゃん、この指輪の使い方を思い出したから教えてあげるわ」
「え?本当ですか?」
「まずは好きな指に嵌めてみなさい。あ、簡単に外れない様にしっかりと嵌めてね」
ライラの言われる通りにナイトは指輪を右手の人差し指に嵌めると、表面に刻まれたハートの形をした紋様が微かに輝く。事前に指輪に付与させたライラのサキュバスの魔力が反応している証であり、この状態ならば指輪の効果を発揮できるはずだった。
「指輪を装着した状態で合言葉を唱えるだけで効果が発揮するわ」
「合言葉?」
「しっかりと覚えておくのよ。合言葉は……そうね、ユリユリでどうかしら?」
「ユ、ユリユリ?」
「変わった呪文だな……うわっ!?」
「「「うわっ!?」」」
ライラの言う通りにナイトはアイラが告げた合言葉を唱えた瞬間、指輪の輝きが増してナイトの身体が光に包み込まれる。他の者達はあまりの光の強さに一瞬目が眩むが、閃光が収まるとナイトが膝を着いていた。
「ううっ……か、身体が熱い!?」
「ナイト!?大丈夫か!?」
「ゴンゾウ君!!触ったら駄目よ!!」
苦しそうなナイの姿を見てゴンゾウは抱き起こそうとしたが、それを止めたのはライラだった。彼女はナイトの様子を観察し、指輪の効果が上手く発動したのかを確かめる。
指輪の光に包まれた瞬間、ナイトは全身が熱くなり、身体のあちこちに変化が生じる。最初に髪の毛が腰に届くまで伸びた後、次に胸板がまるで女性の胸のように大きく膨らみ、股間に消失感を抱く。嫌な予感を抱いたナイトは胸と股間に手を伸ばすと、前者はないはずの物が存在し、後者はあるはずの物が消えている事に気づいて悲鳴をあげた。
「わぁああああっ!?な、なんだこりゃあっ!?」
「ナイト!?そ、その姿はどうしたんだ!?」
「うふふっ、大成功ね!!」
現在のナイトは「女性」の姿へと変わり果て、顔の方は元から女の子のように整っていたのであまり変化はないが、サキュバスのライラにも迫る大きな胸になってしまう。いきなり自分が女の子のような姿に変貌した事にナイトは混乱する。
「ラ、ライラさん!?これはどういう事ですか!?なんで俺の身体が女の子みたいになってるんですか!!」
「あん、落ち着きなさい。ちゃんと説明してあげるから」
「ほ、本当にナイトなのか?」
女の子の身体になったナイトはライラに詰め寄り、自分の身体の変化を問い質す。ゴンゾウとしては自分の親友がいきなり女子の姿になった事に戸惑うが、とりあえずはライラに話を伺う。
「ナイトちゃんが女の子になったのは指輪の効果よ。その指輪にはサキュバスの魔力が込められているの」
「サ、サキュバス!?」
「その指輪は装着する人間に魔力を送り込む効果があるの。どうやら偶然にも指輪に付与されていたのは私と同じサキュバスの魔力だったみたいね~」
「じゃ、じゃあ……今の僕はサキュバスになっちゃたんですか!?」
ライラの言葉にナイトが度肝を抜かし、元々の彼は人間でしかも男性である。だが、サキュバスは女性の魔族しか存在せず、普通ならば人間のナイトがサキュバスになるなど有り得ない。しかし、アイリスが用意した指輪は特別な魔道具で所有者に魔力を送り込む機能があった。
「今のナイトちゃんはサキュバスの魔力を体内に取り込んだせいで女の子のような肉体になってるけど、完全にサキュバスになったわけじゃないわ。その証拠に羽根も尻尾も生えてないでしょう?」
「ひゃっ!?い、いきなり脱がせようとしないでください!!」
「「「おおっ!?」」」
「お前達、何処を見ている?」
ナイトの服を捲って背中を確認すると、サキュバスならば生えているはずの羽根も尻尾も生えていなかった。この際にナイトは上半身が裸になってしまい、慌てて胸元を覆い隠す。それを見ていたゴンゾウの部下の魔族の何人かが凝視するが、ゴンゾウが睨みつけると慌てて視線を逸らす。
女性の魔族しか存在しないサキュバスの魔力を取り込んだせいでナイトの肉体は女性に変化したが、完全な意味でサキュバスになったわけではないので羽根や尻尾は生えずに済んだ。だが、女性の姿のままなのは落ち着かないのでナイトはライラに元に戻る方法を尋ねる。
「ど、どうすれば戻れるんですか!?」
「あら、もう戻っちゃうの?凄く可愛いのに……」
「いいから早く教えてください!!」
「その前に確かめたい事があるの。指輪を外してもらえるかしら?」
ライラの言葉を聞いてナイトは言われるがままに指輪を外そうとするが、どんなに力を込めても外れない。指輪が食い込んで外れないというよりは指の一部となったように引き剥がせない感じだった。
「は、外れないんですけど……」
「それなら成功ね。魔道具は効果を発揮している間は簡単に外せる代物じゃないわ。能力を解除しない限りは外れる事はないと考えていいわ」
「それならどうやったら外せるんですか!?」
「落ち着きなさい。外す時は合言葉を逆から言えばいいのよ」
「逆からということは……リユリユ?」
最初に教わった合言葉を逆にして唱えた瞬間、ナイトの身体が光り輝くと元の身体へと戻る。そして先ほどまではどれだけ力を込めても外れなかった指輪があっさりと抜けた。
「あ、簡単に取れた」
「おおっ、元の身体に戻っているぞ」
「はあっ……もう少し女の子のナイトちゃんも可愛がりたかったのに」
「「「はあっ……」」」
「ちょっと、誰かため息吐いてなかった!?」
元の姿に戻ったナイトを見てゴンゾウは安心するが、ライラと他の魔族数名が残念そうな表情を浮かべる。ちなみにサキュバスは魔族の間では人気が高く、容姿が大きくかけ離れた種族からも愛されている。実際にアイリスの父親である先代魔王はミノタウロスだがサキュバスである母親に惚れ込んで結婚していた。
「まさかサキュバスになりかけるなんて……でも、不思議と気分は悪くなかった気がします」
「あら?ナイト君たらもしかして女の子になりたかったの?それなら私の術で身も心も本当の女の子にさせてあげるわよ」
「い、いや、そういう意味じゃなくて……何となくと言うか、変身している間は力が湧きあがるような感覚があったんです」
「そうなのか?」
指輪の効果で肉体が女性に変化した瞬間、ナイトは不思議と嫌な気分ではなかった。まるで自分の身体が軽くなったように感じ、試しにもう一度だけ変身してみる事にした。
「ゴンちゃん、変身した状態で俺と戦ってもらえる?」
「何!?もう一度戦うのか?」
「うん、さっきの姿で試したいことがあるんだ」
「いいんじゃないかしら。ゴンゾウ君、相手をしてあげなさい」
「しかし、女に手を出すのは……」
「あら?戦場に置いては男も女も関係ないわ。相手が女だからと油断して本気を出せないような軟弱者は戦士としては三流以下よ」
「むうっ……」
ナイトの提案にゴンゾウは困った表情を浮かべるが、ライラの言葉を聞いて一理あると判断したのか構えを取った。ナイトは恥ずかしく思いながらも指輪を装着して呪文を唱える。
「ユ、ユリユリ……ううっ、この格好はちょっと恥ずかしいな」
「ほら、恥ずかしがってないで戦いなさい」
汗をかくと思ってナイトは鍛錬を行う時は薄着になるのだが、女性の肉体に変化すると胸が大きくなって男性用の服では胸が苦しくなる。サキュバスの魔力で変身しているせいか、魔族の視点でもナイトは魅力的な存在に見えるらしく、ゴンゾウの部下のミノタウロス達が騒ぎ出す。
「やはり女の格好になると可愛く見えるな……」
「男の格好をしているのに逆にそれが可愛いというか……」
「人間の女に今まで興味なんてなかったが、こうしてみると……」
「貴方達~うちのナイト君にちょっかいをかけたら……どうなるか分かってるわね?」
「「「ひいっ!?」」」
ナイトに対して邪な気持ちを抱いた魔族に対してライラは冷たい視線と殺気を向けると、彼女の気迫にミノタウロス達は震え上がる。その一方でナイトは準備運動を行い、先ほど戦った時よりも動きに切れがあるような気がした。
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