第12話 騎士のあり方
「そうだ。俺がユーク・イーゼルベルクだ。東国では、苗字を先に名乗るのだろう?」
「やっぱりユークか。まさか、転生したの?」
ヒナビは半信半疑といった様子で訊いてくる。
「そのようだ。とある冒険者の身体に居候させてもらっている。だが、このことが知られれば、ウルスラ様に取り憑いた悪魔に狙われる」
ファーレンに取り憑いた悪魔は俺の正体に気付いていなかったようだが、知られるのも時間の問題。できれば先手を打ちたいところだ。
「悪魔の仕業だったのね。おかしいとは思っていたのよ。あのユークが乱心するなんて。権力欲があるようには見えなかったし、混乱を好む破滅主義者にも見えなかったから。ましてや、乱心するほど弱い精神の持ち主とも思えない」
じゃあ少しは疑ってほしかったな。さっきは本気でシャルパンを殺しにかかっていたし。
「今は悪魔に対抗できるよう、鍛錬しているところなんだ」
「鍛錬って、そんな悠長なことを言っている場合なの? 今すぐ聖都に攻め上ってウルスラ様をお救いしないと!」
「そんなことをすれば聖騎士の大群に止められる。今度は俺もお前も死刑だろうな」
「だったら私は事情を知らないフリをして、聖女様の動向を探ってくる!」
「な、いきなりだな」
さすがの俺も狼狽してしまった。
「ここは慎重になったほうがいい。大聖女ウルスラ様へ害をなせば、ルーライ教会配下の五大国と百以上のギルドを敵に回すことになる。俺やお前に大それた真似はできない」
「だからって、あんたはそれでいいの? 逆賊の汚名を着せられ、復讐をなすことも、かつて忠誠を誓った聖女様を救うこともできない。それくらいなら、単騎で聖都に乗り込んで討ち死にしたほうがマシよ」
ヒナビは人一倍仁義に篤い騎士だった。東国では、誇りを守るためなら自ら腹を切って死ぬことも厭わないという。だから、そう言うのも納得できる。
「俺は教会に殉じると誓った身。今更死など怖くはない。だが、せっかく拾った命、確実に使いたい。犬死にはごめんだ」
「じゃあどんな策があるの?」
「それは……分からない」
そう答えると、ヒナビは呆れたようにため息をついた。
「分からないから、シャルパンとの修行をグダグダと続けるの? そんなことでは、一生かかっても悪魔を倒せない。できることだけやるのが騎士の仕事じゃない。理想のためならどんなことでもやるのが騎士のあり方よ。あんたはただ、逃げる言い訳がほしいだけ。現に、私の裂空斬を防いだのなら、もう四聖憲と同等の力は取り戻しているでしょ?」
確かに。俺はなにを足踏みしていたんだ? 怖いのか? 心の奥底では、あのときのように信じていた友に殺されるのを恐れていたのか?
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