第11話 【魔剣】のユーク

「シャルパン!」


 俺は駆け寄り腕をほどこうとするが、びくともしない。おまけに、ここは【禁裏御料】の結界の範囲内。敵と断じたものの存在を拒絶する絶対不可侵の結界だ。俺はまだ敵認定されていないようだが、シャルパンの肉体はどんどん削られていく。これは本格的にマズい。


「剣技【スーパーノヴァ】」


 俺は剣に雷属性の魔力を込め、爆散させた。これは発光に極振りしたただの目眩まし。だが、ヒナビには明確に効くはずだ。


「くっ」


 俺は、ヒナビが怯んだ隙を見逃さなかった。


「【なにゆえ諸国の民はわめき立て,諸々の民は空しいことを企てたのか。私へ求めなさい。なればこそ、私は汝に地の果てまでを与えよう】」


 俺は剣を天に掲げる。


「土魔法【アース・クリエイション】」


 途端に洞窟は形を変え、ドーム状に変形していく。【スパイラルタワー】よりも大規模な変化を起こすには、この魔法しかない。


 そしてこの地形なら、シャルパンも姿を変えられる。


「竜魔法【変身】・解除」


 詠唱とともに、シャルパンは元のドラゴン形態へと戻った。空気が押し出され、暴風が吹き荒れる。


「ファイアブレス」


 ドラゴンの体内には、可燃性のガスを生成する内臓がある。そこから出したガスに奥歯の燧石で着火して放つファイアブレスは、魔力を必要としないドラゴンの奥の手。最強の切り札だ。


 案の定、白鬼とか言うモンスターの腕は焼け焦げ、崩れ落ちた。


「さて、改心するなら今のうちだぞ? 小娘」


「誰がするか」


 途端に【禁裏御料】は縮小していく。そして、結界はヒナビの刀に纏わりついた。


「あれは、【裂空剣】!」


 結界内の膨大な魔力を細い刀身に圧縮して纏わせ、振るう剣技。斬撃の間合いは自在に変化し、喰らえば確実にその部位は削り取られる。ヒナビの必殺技だったな。


「御首頂戴!」


 ヒナビは容赦なく居合斬りを放つ。土のドームは両断され、朝の空が見えるようになった。


 だが、俺とてただでやられるほどバカではない。


「なにをした?」


 今の斬撃を防がれたことを意外に思っているのだろう。だが、甘いな。俺は四聖憲最強、【魔剣】のユーク。魔剣の所以は、魔力を高濃度圧縮し刀身に纏わせて振るう剣技だ。


「ユークの得意技、【魔剣】だよ。覚えていないか? 大篝鄙火(おおかかがりひなび)?」


「その呼び方、ユークなのか?」


 ヒナビはそう問うてくる。もうこいつには正体を明かしていいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る